
全米最大級の作品数を誇る
日本のコンテンツ産業の輸出へ――。2024年6月、日本政府(官邸知的財産戦略本部)は「新たなクールジャパン戦略」を再起動した。日本のコンテンツの海外市場規模は、22年時点で4.7兆円だったが、33年までに20兆円へと拡大することを目標としている。その中で大きな期待が寄せられているのが「マンガ」。
2年連続で売上高300%成長を記録――。いま、日本のマンガは米国で人気を博している。舞台は電子書籍サイトだ。NTT西日本のグループ会社であるNTTソルマーレが運営する国内最大級の電子書籍サイト「コミックシーモア」が米国でも成長を加速させている。それが全米最大級の作品数を誇る「MangaPlaza(マンガプラザ)」だ。
同サイトは3年前にローンチしたが、その3年間で売上高は約10倍に成長。当初、同社では「日本で売れるマンガは海外でも売れる」という見通しの下でサービスを開始した。興味深いのは「令嬢系作品(異世界ファンタジー系/和風ファンタジー系)」が大ヒットしている点だ。
「国内の電子書籍サイトは外資系大手が参入するなど競争が激しくなっている。成長を続ける国内市場で奮闘しつつ、成長戦略に外せないグローバル展開にも力を入れていく」――。こう語るのは同社電子書籍事業部企画グループ長の坪井茂昭氏だ。
MangaPlazaでは講談社やKADOKAWA、白泉社、大洋図書、SBクリエイティブ、ファンギルドといった120社以上の出版社とパートナーシップを提携。人気の少年・少女・青年・女性マンガなどの作品を14万点以上扱っている。
米国に照準を当てたのは今後の需要の拡大が期待されるからだ。米国ではいち早く日本のアニメが大ヒットし、米国の人々がコスプレを着ている姿などはよく見かけられるようになった。背景にあるのがコロナ禍だ。巣ごもり需要を受けたアニメ配信の視聴と相まって、その原作マンガの購入定着が進んだ。
坪井氏は「日本ではスマートフォンの普及が拡大した2012年頃から電子マンガの市場も拡がり、紙から電子に移行するスピードも速かった。電車通勤・通学時などのスキマ時間にマンガを読む人が増えたからだ。一方、米国はクルマでの移動が多く、オーディオで音楽を聴くことが主流だったため、普及の時間軸が日本とは違ったのではないか」と振り返る。
当初、ローンチ時点ではターゲットユ―ザーが国内と米国で異なると同社は想定していたが、マーケットを分析してみると「国内市場とかなり類似していることが判明した」(同事業部グローバルビジネスグループシニアプロデューサーの丹羽良太氏)。しかも、「コミックシーモアで蓄積したデータを分析したことで令嬢系は米国で流通していない分野であり、そのジャンルが受け入れられる可能性があると分かった」(同グループシニアプロデューサーの香月大地氏)
NTT西日本の新規事業を担当
当然、米国で配信されるため、内容は英語に翻訳される。出版社が自社で翻訳した作品に加え、NTTソルマーレも翻訳チームを自社で抱えているため、同社が対応するケースもある。丹羽氏は「コミックシーモアの約20年にわたる運営で培ってきたサイト運営やマーケティングのノウハウを最大限活用し、マンガの魅力を海外のお客様に届けられるように、世界観を丁寧に再現した作品翻訳や、サイト作りを続けている」と話す。
同社にはマンガ好きの英語ネイティブメンバーが6人在籍しており、AIも翻訳に活用。「質の高い翻訳ができるようになっている」と同グループ長の鳥嶋祐嗣氏は強調した上で「ただ、日本で出版されているマンガのうち、英語版として配信されているのは、まだ2%程度に過ぎない。作品数をもっと増やしていきたい」と意気込む。
2002年、NTT西日本の子会社として出発した同社。大阪、広島、福岡といった大都市が点在しているという地域性もあり、インフラ事業会社として東日本に比べて効率が悪いことは当時から明白だった。そこで新規ビジネスを専門とする組織が生まれ、会社として発足した。
電子書籍コミックサイトの運営で培ってきたノウハウとして代表的な事例がある。「ある作品では、1巻や2巻ではなく、3巻の売り上げが一番高いというデータがあった。広告で話題になっているコマが3巻にあり、3巻から買う人が続出。作品全体の販売を促進するために、1巻と2巻を無料にするというキャンペーンを出版社に提案し、ヒットにつながった」(坪井氏)
米国とは関税を巡ってギクシャクしている側面があるのは事実。しかし一方でアニメやマンガは国境を超える。「海賊版の取り締まりなど課題はあるが、作品の世界観を通じて日本の文化を知ってもらうきっかけにもなる」と鳥嶋氏。
アニメやマンガを海外で普及させるための具体的な方策となるか。NTTソルマーレのMangaPlazaの力量が問われていく。