
東京電力ホールディングス(HD)は3月、事業再建に向けた「総合特別事業計画」を変更し、国に1兆9千億円の資金援助の追加を求める内容を盛り込んだ。計画は本来、2024年度内に抜本的に見直すはずだったが、夏以降に見送り、新しい計画は暫定版にとどめた。収益改善の要となる柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の目途が立たないためだ。
同社は、東京電力福島第1原発事故に伴う賠償などの費用が膨らんだことから、国に援助を求める上限額を従来の13兆5千億円から15兆4千億円に引き上げた。同原発にたまった処理水の海洋放出で、賠償の対象が漁業者にも拡大したことなどが費用膨張の主な要因。国が交付国債を発行して費用の一部を肩代わりしており、同社は返済の見通しを示す必要があった。
新たな計画は、柏崎刈羽が25年度から1基稼働している前提で、年間約1千億円の収支改善効果を見込んだ。収支見通しは、東電HDと送配電や小売りなど主要子会社の5社全体で算出し、純利益予想は25年3月期が572億円で、31年3月期にかけて2277億円に増えると試算した。
ただ、柏崎刈羽の再稼働は地元の同意を得られていない上、7号機はテロ対策設備の建設が遅れ、停止期間の長期化が避けられない。収益底上げを目指し事業再編も模索するが、事業提携戦略は中部電力と発電会社JERAを設立して以降描けていない。廃炉や賠償に年間約5千億円を確保した上で、中長期的に年4500億円規模の利益を創出する目標を掲げてきたが、到達までの道のりは長い。
一方、会社が自由に使える資金「フリーキャッシュフロー(純現金収支)」は、25年3月期が5205億円の赤字、再稼働を仮定した26年3月期でも4461億円のマイナスと想定。賠償に加え、送配電設備などへの投資もかさむ中、東電HD社長の小早川智明氏は「不断の経営改革や最大限の経営合理化を進める」と説明した。