【わたしの一冊】『希望格差社会、それから 幸福に衰退する国の20年』

幸せに衰退するニッポン」に生きるということ

 本書は「失われた30年」といわれる平成の失敗の原因追及本ではない。日本の「失われた30年」が更に今後も続くことを前提として、この国で現実に生き続ける生活者の視点から、この国の行く末を透視しようとしている。

 本書は平成時代に生じ、今も改革されない負のトレンド4つを所与のものとして認識する。①経済停滞(もう日本は先進国ではない)、②男女共同参画の停滞、③少子高齢化、④格差社会の進行(東京と地方の格差拡大)はもう変わらない。著者は、これらは相互にからみ合い、30年も続いたことから格差社会は完成し、日本の衰退はさらに継続すると判断する。

 平成の「経済衰退」が「就活」と「婚活」をもたらしたが、就活も婚活も希望格差の是正には貢献しない。

 令和以降は格差が固定し、幾ら努力しても豊かな家族生活は手にはいらず、若者の希望は消えた。かくして、希望格差は拡大し、リアルの生活で格差を埋めることはできなくなった。そこで、「日本人はリアルな世界で格差を乗り越えることを諦めて、バーチャルな世界で格差を埋める方向に進んでいる」と喝破する。

 バーチャルな世界とは疑似仕事としてのネットゲームやパチンコであり、マニアやオタクが疑似会社を形成し、参加者は得点や「いいね」を媒介として疑似成功体験を得ることができる。疑似家族としては「ペット」があり、疑似親密関係としては「推し活」が登場した。

 本来リアル社会の基本たる選挙さえもバーチャルな「推し活」になり、現世とは別世界の話となる。「リア充」を諦めて別世界で生きることにした、日本の若者達が「満足しながら緩やかに衰退し、みんな一緒に少しずつ生活水準が低下することを良しとする」のなら、バーチャルな世界でも、彼らの幸せが得られなくなるのはそう先のことではないような気がする。

 本書は逆説的な表現で、この国難をバーチャルに逃げるのか、改革に取り組むのか、リアル国民の有り様を問うている。

冨山和彦の「わたしの一冊」『企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか』