大阪大学(阪大)は3月27日、人の生体組織(筋肉)を「物理リザバー・コンピューティング」の中間層(リザバー層)として利用することで、複雑な計算が可能であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の小林洋准教授によるもの。詳細は、IEEEが刊行する幅広い分野を扱う学際的な学術誌「IEEE Access」に掲載された。
リザバー・コンピューティングとは、リカレントニューラルネットワークの一種で、その訓練方法を大幅に簡略化した機械学習の枠組みである。入力層で入力データを受け取った後、中核となるランダムな結合を持つ大規模ネットワーク(リザバー層)において入力を処理し、出力層でリザバー層の状態に基づいて最終的な出力を生成する。出力層のみを訓練することで訓練方法の大幅な簡略化を実現しているのが特徴であり、主に時系列データの処理や予測に用いられている。
そして、リザバー・コンピューティングの基本的な考え方を、実際の物理システムや現象を利用して実現しようとするアプローチが、物理リザバー・コンピューティングだ。通常のリザバー・コンピューティングにおけるリザバーは、コンピュータ上のソフトウェアとして実装されているが、物理・リザバーコンピューティングではそれが物理システムに置き換わる。リザバーとして利用できる物理システムは多岐にわたり、光学システム(光の干渉、回折、非線形光学現象など)、電気回路(アナログ回路、メモリスタなどの特殊な電子部品など)、流体システム(液体や気体の流れ)、機械システム(振動する物体やバネなどの機械的な要素)、量子システム(量子力学的な現象)などが挙げられる。これらの物理システムを中間層(リザバー層)として活用してデータ処理を行うため、原理的にリザバー層ではコンピュータを必要としない。
リザバーを物理システムに置き換えることには、いくつかのメリットが存在する。まず挙げられるのは処理速度の向上で、特に光や電気回路を利用したシステムでは、非常に高速な情報処理が期待できるという。加えて、低消費電力であることも大きな魅力であり、リザバー層ではコンピュータを原理的に必要としないことに加え、特定の物理現象を利用することで、従来のコンピュータよりも少ないエネルギー消費で同等の計算を実行できる可能性があると期待されている。その上、従来のコンピュータとは異なる原理に基づいた計算が可能になることから、新しい種類の問題解決や応用につながる可能性も示唆されている。