国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は3月27日、「空芯ビーム」と呼ばれる特殊なビームを形成することで、飛行中のドローンに搭載されたカメラなどの機器に影響を与えずに、無線で電力を供給する新技術を開発したと発表した。

同成果は、ATR 波動工学研究所の松室尭之研究員を代表とする研究グループによるもの。

  • 提案システムのイメージとLED点灯の様子

    (左)提案システムのイメージ。(右)空芯ビームによるLED点灯の様子(出所:ATR)

ドローンの社会実装が進む昨今、スポーツ観戦や物流、農業、さらには災害時の情報収集や通信復旧など、さまざまな分野でさらなる活用拡大が期待される。しかしドローンは、搭載できるバッテリーの容量に限りがあるため、連続飛行時間が30分から1時間程度と短いという課題が残されている。

こうした課題を解決するためATRが提案しているのが、マイクロ波を用いた無線電力伝送システムだ。ただし無線電力伝送を行うには、マイクロ波を受信し直流電力に変換する「レクテナ」をドローン株に設置する必要があるとのこと。だがそれでは、ドローンに搭載するカメラなどのミッション機器と、電波的・物理的に干渉してしまうという問題が生じる。

そこで今回研究チームは、電力伝送時の干渉問題を解決するため、空芯ビームを利用した無線電力伝送システムの開発に着手。まず、伝送距離や送受電アンテナの大きさをもとに、空芯ビーム形成のために必要な振幅・位相分布を設計したという。なおこのビームは、アンテナから放射される電波の位相を渦状に回転させるk遠出、伝搬軸上で電波が打ち消し合い、中心部分の電力強度がゼロになるという特徴を持つ。

その後研究チームは、この設計に基づいて24GHz帯の空芯ビームを生成できる直径30cmの送電アンテナを開発。さらに受電側として5cm角の軽量なレクテナを開発し、ドローン下部に19個を平面状となるよう配置した。また各レクテナにはLEDが取り付けられ、電力が伝送された場所を光で確認できるようにしたとする。

そしてこのシステムの性能評価のため、送電アンテナから1m離れた位置にレクテナパネルを設置し、実験を実施。その結果、ドローンの中心部には影響を与えず、周囲のLEDが点灯することが確認されたという。なお今後の見通しとして、さらに大型送電アンテナを開発することで、より長距離・大電力の無線電力伝送が可能になるとした。

  • 送電アンテナの設計分布と実験の様子

    (左)送電アンテナの振幅・位相分布(設計値)。(右)実験の様子(出所:ATR)

研究チームは今回の成果について、無線電力伝送システムにおいて、ビームの中心部分に干渉を回避できる領域を作ることに成功し、これにより、ドローンに搭載されたカメラや各種ミッション機器と電力伝送の干渉問題を根本的に解決できる技術になるとする。また同技術は、地上から電力を送ることで長時間飛行しながらさまざまなミッションを達成できるドローンの実現に向けて重要であるとともに、長距離無線電力伝送をはじめとするさまざまな分野への応用が期待されるとしている。