データマネジメントにより活発なデータ活用を推進するためには、適切な組織が必要だ。では、データマネジメントに取り組む企業はどのようなことに留意して、組織づくりを進めるべきか。

本稿では、IT企業、金融企業、エンタメ企業と多業界でデータマネジメントを推進してきた吉村武氏にデータマネジメントを円滑に行うための組織の在り方についてお話を伺った。

データ活用を進めるために必要な3つの軸

吉村氏はデータ活用を進めるために必要なデータの専門職には「主に3つの軸がある」と話す。そのうえで具体的に示したのは、「データエンジニア」「データサイエンティスト/データアナリスト」「データストラテジスト」だ。それぞれの役割はどのようなものか。

データエンジニア

まず、データエンジニアは、その名のとおり、主にデータ基盤の構築と運用・保守を担うエンジニアだ。情報システム部門のような立場で、インフラの構築・管理を担う人材である。

データサイエンティスト/データアナリスト

また、データサイエンティスト/データアナリストは、データの分析と活用をする。具体的にはデータから意思決定のための示唆を出す、メールターゲットのリストをつくるといった事業やビジネスに貢献するための業務が考えられる。

企業によっては、サイエンティストとアナリストを分けて配置する場合もある。同氏はその違いを、「アナリストは事業ドメインが強く、サイエンティストは事業部門と並走するというよりは、学術的、研究に近いような比較的長期のプロジェクトで高難度の分析をするケースが多い」と説明した。

データストラテジスト

そして、データストラテジストは「事業部門とシステムやデータを橋渡しする存在」だと同氏は言う。

「データストラテジストは、事業ドメインの成果を最大化するプロジェクトマネージャーのような存在です。データエンジニアやデータアナリスト、データサイエンティストに対し、事業を見据えたうえで、どのようなデータを収集すべきか、どのような分析をするべきかを伝えながら、プロジェクトのQCD(Quality、Cost、Delivery)を守る人が、データストラテジストなのです」(吉村氏)

データサイエンティスト、狭義と広義の役割

データマネジメントを推進するための組織には、この3つの役割を果たす人材が必要だ。データ活用やデータマネジメントに取り組む際、「データサイエンティストを雇えばよい」と考える人も一定数いるようだが、同氏は「いきなりデータサイエンティストを雇ってもうまくいかない。1人しか配置できないのであれば、データストラテジストを兼ねたデータサイエンティストを雇わなければ、意味がない」と指摘した。

また、データサイエンティストの広義の意味として、データサイエンティスト協会が示すスキルセットについても言及。同会ではデータサイエンティストを「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」が備わった人材と定義付けているが、「この3つを兼ね備えた人材を見つけるのは難しい。データサイエンティストについては、狭義にあたる“データ分析官”と捉えておくと話がしやすい」だとした。

3つの役割がうまく機能するために必要なものとは

データエンジニア、データサイエンティスト/データアナリスト、データストラテジストを揃えれば、データマネジメントがうまくいくかと言うと、そういう訳ではないようだ。吉村氏はよくある失敗例として、“PoC(Proof of Concept、概念実証)”を挙げた。

データ活用をするためには、「とりあえずデータを分析しよう」と考えがちだ。そこでゴールや次のステップを決めぬまま、まずはPoCと名付けた分析プロジェクトを開始してしまう。結果、何かしらのアウトプットは出すものの、ビジネス部門や業務システム部門とのコミュニケーションが十分でなく、いざ実行してみようとすると、ビジネスの仕組み上の根本的な問題に直面し、「その施策は実行はできない」と結論付けられてしまう。

このような失敗をしないためにも、「データストラテジストがプロジェクトをマネジメントし、ゴールを決めることが重要」だと同氏は強調した。

KPI、KGI不足が招く失敗例

では、ゴールはどのように決めるべきか。同氏は「KPIをきちんと決めること」だと話す。具体的には、この数値の精度を上げると決め、さらに数値がどこまで向上したら本番展開するのか、どこを下回ったら撤退するのかという基準と期日を決めることが重要だ。これにも“よくある失敗例”が2つある。

1つは、「やってみないと分からない」というデータサイエンティストやデータアナリストの言葉を鵜呑みにしてしまうことだ。その結果、いろいろとやってみたものの、「もう少しやってみないと分からない」となり、ずるずると検証を続けることになる。このような状況では、最終的には「やってみても、何も分からなかった」というパターンに陥りやすい。

もう1つは、事業やビジネスにどのようなインパクトが出せるのかを明確にしないまま、分析を進め、何かしらの“示唆”を出してしまうことだ。例えば、クレジットカード業界で、データサイエンティストが数字だけを分析し、「リボ払いをする人は年収が少ない」ことが分かったとする。事業部門側にとってそれは「感覚的に知っている、当然のような傾向」であり、彼らが本来必要としている「自分たちが知らないことをデータで教えてほしい」という要望に応えられていない。

「このようなケースでは、表面的には『ありがとう』『参考になった』などのお礼を言ってもらえるものの、実際には全然使われずに、闇に葬られることになります。分析側としては一番悲しい結果ですので、そうならないように認識を揃えることが重要です」(吉村氏)

データドリブン関連の注目ホワイトペーパー

ビジネスで正しい意思決定を下すには? なぜいま「データ活用」が注目されているのか
データドリブンな意思決定を実現するには? データ連携ツールが果たす役割に迫る
経営企画室が全社の予実情報を一元化した事例を紹介! 会議資料の作成時間を約1/3まで削減
ハイブリッド連携やランサムウェア対策まで!? AIに必要なデータ管理とは? 多様化するストレージの最新事情に迫る!

データドリブン関連のオススメ記事

データドリブンマーケティングを実践するには? 5つのステップと成功の秘訣
データドリブン経営とは?4つのメリットと成功に向けた6つのステップ
データドリブン思考で成功に導くビジネス戦略
データドリブンな組織になるために – 企業文化をどのように醸成すべきか
データドリブン思考を開発に取り入れるメリットとは
防災DXでまちの安全を守るNECのシステムとは ‐ CEATEC 2024
大企業の9割以上が「効率的なデータ活用においてワークフローシステムが重要」
トップセールスの暗黙知をデータドリブンでモデル化するソリューション

データマネジメントを進めるうえで必要な視点とは

失敗例を踏まえ、吉村氏はデータマネジメントに関わる3つの役割それぞれに重要なポイントを示した。

データエンジニアは、データサイエンティスト/データアナリストが分析に集中できるように品質の高いデータを整備し、品質の高いデータを維持できているかを監視しておかなければならない。

データサイエンティストやデータアナリストは良い分析結果を出すことは当然だが、分析の仮定で分かるメタデータの管理をしっかりと行うべきである。メタデータとは、データを整理・分類・管理するためのデータで、例えば「1ならYes、2ならNo」といったデータの意味や形式、さらにはどこのシステム、テーブル、フィイル等にどのデータがあるのかなどを記したものだ。これが適切に管理されていないと、せっかく調べたデータの意味が蓄積されず同じ分析をするときに一から調べる必要が出てくる。

データストラテジストで重要なのは、事業部門側と交渉し、分析に必要なデータを集約することだ。データが欠損していないかはもちろん、そもそも分析に耐え得るデータが揃っているのかを見極める必要がある。同氏は改めて、「データストラテジストはビジネス寄りの人材であり、分析に必要となる簡単な補足データなどをつくる部分を担う」と力を込めた。

データを意思決定に生かすためにすべきこととは

データマネジメントの目的は、データで組織の意思決定を迅速にし、決定の精度を向上させることにある。しかし、一部の組織ではデータが不適切などの原因で、意思決定に活用されない場合もあると吉村氏は言う。

例えば、参照元や参照時期の違いなどにより、データサイエンティストやデータアナリストが出した数字と、事業部や経営層が普段から見ている数字に乖離があった場合。現場や経営層からは「データは大丈夫なのか」という疑いを持たれ、せっかく分析結果を出しても使われなくなってしまう。

あるいは、分析する側に提供されているデータが、見込み値の混ざったものだったり、重要データが別ファイルで管理されていて抜けていたりなど、“偽物” (不完全版)ということもあるそうだ。

「意思決定側は“偽物”だと知っているのに、それがデータを分析する側には伝わっておらず、分析が無駄になることもあります」(吉村氏)

経験に基づく感覚なども重要な意思決定材料

一方で同氏は、意思決定の判断材料としては、定量的な分析結果だけではなく、「感覚的な要素も大事にするべき」と話す。大切なのはそのバランスだ。

「データと、それには現れない軸をバランスよく判断することが大切です。その点でも、データストラテジストには、意思決定者とコミュニケーションをとり、データで意思決定できるよう調整していくことが求められています」(吉村氏)

インタビューの最後に吉村氏は改めて、「3つの役割がデータマネジメントの成功に欠かせない」としたうえで、「いかに事業部門と連携し、データを事業に採り入れていくかが重要。正しいレポートを出すことが大事なのではなく、正しいレポートを基に、事業部門が的確な意思決定をしていくことに意味がある」と強調した。

* * *

データを活用するために必要なデータマネジメントには、データエンジニア、データサイエンティストやデータアナリスト、データストラテジストという3つの役割が求められる。組織においてデータ活用のマインドが正しく浸透し、意思決定の1つの材料となるためには、適切なデータマネジメント組織の存在が欠かせない。吉村氏のアドバイスを参考に、改めてデータマネジメント組織の在り方を考えていただきたい。

データドリブン関連の注目ホワイトペーパー

ビジネスで正しい意思決定を下すには? なぜいま「データ活用」が注目されているのか
データドリブンな意思決定を実現するには? データ連携ツールが果たす役割に迫る
経営企画室が全社の予実情報を一元化した事例を紹介! 会議資料の作成時間を約1/3まで削減
ハイブリッド連携やランサムウェア対策まで!? AIに必要なデータ管理とは? 多様化するストレージの最新事情に迫る!

データドリブン関連のオススメ記事

データドリブンマーケティングを実践するには? 5つのステップと成功の秘訣
データドリブン経営とは?4つのメリットと成功に向けた6つのステップ
データドリブン思考で成功に導くビジネス戦略
データドリブンな組織になるために – 企業文化をどのように醸成すべきか
データドリブン思考を開発に取り入れるメリットとは
防災DXでまちの安全を守るNECのシステムとは ‐ CEATEC 2024
大企業の9割以上が「効率的なデータ活用においてワークフローシステムが重要」
トップセールスの暗黙知をデータドリブンでモデル化するソリューション