蓄積したデータに基づく客観的な判断からアクションにつなげる「データドリブン(Data Driven)」という言葉を、ビジネスの現場でも耳にする機会が増えたように感じる。その一方でデータドリブンはどこか絵空事のようで、身近な行動と結びつけるのはまだ難しい。
富士通が2020年10月に開始した全社のDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクト「Fujitsu Transformation」、通称「フジトラ」では、データドリブン経営を変革の中心テーマに掲げて挑戦を続けてきたそうだ。同社のデータドリブン経営を支える組織「Data Analytics Center(DAC)」がこのほど、川崎市のオープンデータを活用して新たな洞察を得るためのデータ分析コンペを開催した。
イベントにはデータ分析の初心者から熟練者まで、幅広いプレイヤーが参加。市が公開するオープンデータの他、都市イメージ調査や国勢調査の結果、近隣自治体が公開しているオープンデータを活用して、川崎市の魅力向上に資する新たなアクションの提案が行われた。本稿では白熱した最終審査と表彰式の模様をレポートしたい。ぜひデータドリブンな検証の過程を身近に感じてほしい。
イベント概要 - 川崎市さん、気付いてました?
DACが主催する「DDM Award」は、DDM(Data Driven Management)を自分事として捉え行動を起こした社員の活動を、職種や組織の壁を超えて称賛する全社表彰イベント。富士通社内でデータ登録の重要性を体感するために、データ分析コンペなどが実施される。
データ分析コンペ2回目の開催となる今回は、富士通が本店を構える川崎市が2024年7月1日に市制100周年を迎えたことを記念し、市と共同で「川崎市オープンデータ分析コンペティション」を実施。社外向けに参加者を募集するのも今回が初の試みで、同市にゆかりのある企業や学生らも参加した。
データ分析コンペは「川崎市さん、気付いてました? 市の魅力につながる因子・インサイトを見つけ出せ!」がテーマ。市のWebサイトで公開されているオープンデータや都市イメージ調査、市民アンケートの結果に加え、神奈川県が公開するデータや国勢調査の結果などを活用して、市の魅力向上につながる洞察とアクションを川崎市へ提案する。
データ分析の環境に規定はなく、ExcelやBI(Business Intelligence)ツールなど、使い慣れたツールを活用できる。なお、イベントに合わせて富士通はQlik Senseの無料環境を参加チームに提供した。
データ分析の成果物は、5分間のピッチとして提出する。チームが立てた仮説と検証結果、分析結果から導かれたインサイトやアクションが審査される。審査は「Dynamic:大胆な挑戦」「Discover:新たな発見」「Diverse:多様なアプローチ」の3つの観点を基準として行われる。
オンラインで開催された一次審査と一般投票の結果、4チームが最終審査へと駒を進めた。各チームのピッチと会場の様子は次ページでお届けしよう。果たして、優勝を手にしたチームは川崎市にどのような提案を投げかけたのだろうか。
最終審査に先立ち、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏が「2024年は川崎市が市政100周年を迎えた年であり、2025年には富士通が創立90周年を迎える。こうしたタイミングで両者が、社会のため、そして川崎のために貢献できることをディスカッションし解決策を探ることは、次のアクションにつなげるための良い機会となった」と挨拶。
続けて、「世の中はまさにAIブームで、2025年は『AIエージェント元年』とも呼べるだろう。テクノロジーが無ければ社会課題は解決できないことは広く知られるが、AIや先進技術はときに人や社会に優しくないと受け止められる場合もある。そういった拒否感やしりごみ、ちゅうちょする雰囲気を払しょくするためにも、富士通が他の企業や団体と同じ課題を共有しディスカッションすることは大事。データはときに厳しい現実を突きつけるし、見方を誤れば間違った回答が得られる。何度も仮説を立てて検証し、多様な知恵を持つ人がそれを評価するプロセスが重要となる。当社はそのような活動をテクノロジーで支える企業になりたい。そのテクノロジーが川崎市をはじめ広く社会に認知され、ハピネスを共有できる社会を作りたい」とメッセージを送った。
また、川崎市長の福田紀彦氏は「一次審査を通過したチームのプレゼンを拝見し、『こういうデータ分析の切り口があったのか』と、皆さんの独創性のある多様なアプローチに気付かされた。市がさまざまな課題に対応しながら新しい価値やサービスを創出するためには、データから状況を的確に把握し施策に反映することが重要となる。皆さんがデータに向き合う姿勢は市職員にとっても大変良いお手本になった」とビデオメッセージを送った。