
2006年に「藤沢久美の社長Talk」というラジオ番組を始めた。対談した社長の数も900人は超える。
当初は、ラジオ日経でのスタートだったが、今は、M&Aクラウド社のサポートで、Voicyのポッドキャストサービスで配信をしている。
非上場企業にもユニークで学び多い社長は数多くいらっしゃるが、放送上、上場審査を受けている会社ならば安心だろうということで、上場企業の社長を要件とした。開始当初の出演者探しは簡単ではなかった。私に知名度があるわけでもないし、上場企業の経営者のネットワークがあるわけでもない。
仕事を通じて知り合ったIR会社の方々などに経営者を紹介してもらいながら、毎週の番組ゲストを決定するという綱渡りのような状況だった。
とにかく、上場企業で対談相手になってくださる方なら、どなたでも大歓迎。これが実は結果として大きな学びになった。
自分の意思とは関係のない方が対談相手になってくださるからこそ、毎回、大きな発見と学びがあることに気づいた。常日頃「戦略が必要だ」と発言している私を知っている方からは、全く戦略性がないと言われそうだが、おっしゃる通り、戦略など全くなく、あったのは「社長の本音に触れたい」という目的だけだった。
この「本音」が、私にとっては重要だった。だから「ラジオ」を選んだ。 テレビや雑誌で数多くの社長との対談をしてきた私にとって、社長と真剣に対話するには、周りの目や雑音を消すことが重要だった。
カメラがあると気が散る。そして何より、広報やIRの人がそばにいると、その人たちの反応を気にする社長は極めて多い。私は社長の本音が聞きたい。だからこそ、誰にも邪魔されない空間が欲しかった。それが、ラジオの収録ブースだった。
ラジオなら、広報担当者たちもスタジオの外で収録中の音声も聞けるし、ガラス窓を通して様子も見ることができるから心配ご無用。でも、スタジオの中では社長と私が二人きりになれる。
二人だけの空間で、事業の話から子供の頃の話まで、約40分間対話する。 多くの社長から、「今まで話したことのないことを話してしまった」という感想をいただく。これは私にとっての最高の報酬だ。
そして、思う。 社長ほど、真剣に会社のことを考えている人は他にいないのに、その社長の話を邪念無く聞き届けてくれる人は周りに滅多にいないのだろうということを。社長は、やっぱり孤独なのである。