NECは3月12日、同社のヘルスケア事業を支える技術に関する説明会を開催した。説明会には、NEC バイオメトリクス研究所長 宮川伸也氏が登壇し、ヘルスケア事業を支える技術開発について説明を行ったあと、ツアー形式で3つのヘルスケアに関わる技術のデモンストレーションが披露された。

NECのヘルスケア・ライフサイエンス事業とは

NECのヘルスケア・ライフサイエンス事業は、データの利活用を通じて「ヘルスケア:統合マネージド事業」と「ライフサイエンス:創薬/バイオテック」の2つの領域に取り組んでいる。

ヘルスケア領域では、電子カルテや医療DX、検査/健康増進サービス「FonesVisuas」の提供、カラダケア/eリハビリ、歩行センシング技術の提供を行っている。ライフサイエンス領域に関しては、AI創薬、がん最適治療法選択支援「BostonGene」の提供を行っている。

  • NECのヘルスケア・ライフサイエンス事業

    NECのヘルスケア・ライフサイエンス事業

今回、新たなヘルスケア・ライフサイエンス事業の技術として、以下3つについてデモを交えて紹介が行われた。いずれもAIを活用した技術だ。

  • スマートフォンやタブレット端末を用いた映像解析により、自宅での正確なエクササイズを支援するAI技術
  • タブレット端末により非接触で呼吸時の体の動きを可視化し、個人に合わせた運動指導の効果を定量化するAI技術
  • 歩行センシングインソールを用いて脳卒中リハビリを支援するAI技術」の3つが紹介された。

AIを活用したNECの最新ヘルスケア技術3選

自宅における正確なエクササイズを支援するAI技術

「スマートフォンやタブレット端末を用いた映像解析により、自宅での正確なエクササイズを支援するAI技術」は、スマートフォンなどで撮影した映像を解析し、「動作チェック」と「アドバイス生成」を通じて正確なエクササイズをサポートするというもの。

  • エクササイズの様子を撮影するデモンストレーション

    エクササイズの様子を撮影するデモンストレーション

国民病とも言われる慢性腰痛は長く続くため、苦しんでいる人も多いだろう。慢性腰痛はエクササイズにより改善できるということもあり、健康維持・増進のため、自宅でエクササイズを実施する人が増加している。しかしその一方で、適切なエクササイズは分かっていても正しく行えず、改善が見られなかったり、痛みが悪化したりする例が報告されているという課題もある。

そこでNECが開発したのが、「AIで正確なエクササイズをサポートする」技術だ。

2024年に発表した、姿勢状態の認識・原因推定・エクササイズ提案を行う「慢性腰痛の原因に基いて改善エクササイズを提案する技術」に加えて、専門家が注視するポイントと合っているか動きの良し悪しを判定し、専門的なアドバイスを分かりやすく表現してフィードバックする技術を追加した。

  • AIで慢性腰痛のセルフケアをサポートする技術に「AIで正確なエクササイズをサポートする」技術を追加した

    AIで慢性腰痛のセルフケアをサポートする技術に「AIで正確なエクササイズをサポートする」技術を追加した

今後は、フィジカルケアサロンであるNECカラダケアにおいて、実サービスを想定して技術の有効性を検証し、2025年度のサービス提供開始を目指す。

個人に合わせた運動指導の効果を定量化するAI技術

「タブレット端末により非接触で呼吸時の体の動きを可視化し、個人に合わせた運動指導の効果を定量化するAI技術」は、絶えず繰り返される呼吸運動と身体のコンディション関係に着目した技術。

  • 実際に呼吸時の身体の動きを可視化している様子

    実際に呼吸時の身体の動きを可視化している様子

近年の研究を通じて「呼吸運動の練習には腰痛改善効果が期待できる」という結果が得られている一方で、従来の呼吸評価は触診・視診に依存しており、「客観性・再現性に欠ける」「結果の可視化・説明に不向き」といった課題があったという。

さらに客観的な評価を行う技術は機材購入に多額な費用が必要なため、現場導入には不向きであるという課題もあった。

そこで今回、NECが開発したのがた非接触方式の呼吸運動の定量計測・解析技術だ。マーカ式モーションキャプチャでの呼吸計測と同程度の計測精度を実現できる。

  • 左から「開発中の呼吸可視化技術」「呼吸運動中の3D映像」「解析した呼吸中の波形データ」

    左から「開発中の呼吸可視化技術」「呼吸運動中の3D映像」「解析した呼吸中の波形データ」

同技術は、タブレット端末「LiDARセンサ」を使い、整骨・接骨院やジムなどのトレーニング場面で手軽に呼吸時の体の動きを可視化できるもので、整骨・接骨院、パーソナルジムなどを展開する法人に向けに2025年3月末を目標に提供開始される予定。

加えて、東京科学大発ベンチャー企業「Vitalizar」への特許ライセンス提供も決定しており、2025年4月からは整骨・接骨院、パーソナルジムなどを経営する個人事業主にも提供される。

歩行センシングインソールを用いて脳卒中リハビリを支援するAI技術

「歩行センシングインソールを用いて脳卒中リハビリを支援するAI技術」は、脳卒中によって後遺症として遺ってしまった運動機能障害について、頭と身体のギャップを可視化することにより脳卒中リハビリを支援する技術。

あらかじめ普段履く靴のインソールにセンサを内蔵しておくことで、脳卒中リハビリ患者でも無理なく計測を継続できる仕組みを取っており、脳卒中リハビリ向けに厳選された「歩幅」「足底接地時間」「足圧中心移動指数(CPEI)」という3種類の歩行データを可視化することができる。

  • 技術のイメージ

    技術のイメージ

同技術は脳梗塞リハビリセンターを運営するMEDIROM Rehab Solutionsのサービスに採用されており、今後はインソールセンサで分かることを拡張するとともに、腰痛やひざ痛の緩和のための運動療法など、脳卒中以外のリハビリ領域にも展開していくことを目指すという。