NTTデータグループは3月12日、今年7月よりオープンソースソフトウェア(OSS)であるKVM(Kernel-based Virtual Machine)を利用した仮想化基盤を管理するサービス「Prossione Virtualization」(読み:プロッシオーネ バーチャライゼーション)の提供を開始すると発表した。

VMwareに100%追いつくことはできない

2023年、圧倒的な仮想化基盤製品のシェアを誇っていたVMwareがBroadcomに買収されたことでライセンスや料金体系が変更され、VMware製品を利用している企業は仮想環境の再考を求められることとなった。

NTTデータ 取締役常務執行役員 テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当 冨安寛氏は、「BroadcomがVMwareのライセンスを3年間維持すると表明したことで、VMwareユーザーの4分の3が使い続け、残りが乗り換えようとしている」と、VMwareユーザーの実態を説明した。

  • NTTデータ 取締役常務執行役員 テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当 冨安寛氏

そして、「大規模なシステムを使っている」「長くシステムを使いたい」企業がVMwareから乗り換えようとしているという。

「ライセンス体系やバージョンアップのポリシーが変わることによる混乱に巻き込まれたくない、そう考える企業がKVMを仮想化基盤の第一候補に挙げる傾向にある。VMwareを使い続ける意向を持つ4分の3の企業もかなりの割合で乗り換えると見込んでいる。こうした状況を見越してサービスを開始する」と、冨安氏は説明した。

新サービスは大規模な仮想環境、多くの仮想マシンの管理に対応することを前提として、バーチャルマネージャーを開発したが、「VMwareに100%追いつくことはできない。これが一番大事なところ」と、冨安氏は述べた。

OSSのKVMで仮想化基盤のデータ主権を確保

新サービス開発の狙いはVMwareからの移行だけではない。冨安氏は「当社はデータの主権を重視している。われわれは国内の所有データセンターで社内のリソースで管理することで、クラウドサービスであるOpenCanvasの主権を確保している」と語った。

昨今、自国の規制やルールに基づいてデータを運用する「データ主権」という動きが広がっている。例えば、EUの一般データ保護規則(GDPR)は、データ主権の一環として、自国におけるデータ保護を強化し、外国企業によるデータ利用に規制を設けている。

クラウドの世界でもデータ主権が求められるようになってきており、ITベンダーはデータ主権が確保された「ソブリンクラウド」の提供を始めている。NTTデータも昨年10月に、Oracle Cloudをソブリンクラウドとして提供することを発表した

冨安氏は「オンプレミスの仮想化において、ミドルウェアの主権をどう取り戻すかが企業の関心となっている」と指摘した。ミドルウェアはWebサーバのApache、アプリケーションサーバのApache Tomcat、データベースサーバのPostgreSQLなど、OSSが一般的に使われており、「主権が確保されたといえる」(同氏)という。

しかし、仮想化基盤の主権確保が置き去りだったことから、今回、KVMを用いてOSSの仮想化基盤を構築しようとしている。これまでKVMは信頼性が低かったことから、同社はKVMを安定して運用できるサービスを提供する。

  • オンプレミスの仮想化における課題

KVMを使った仮想基盤の課題を解決

新サービス「Prossione Virtualization」の詳細は、NTTデータグループ技術革新統括本部 プリンシパル・エンジニアリングマネージャ 濱野賢一朗氏が紹介した。同氏は、新サービスについて「NTTデータとしてシステムインテグレーションではなく、プロダクトサービスの観点で届けたい」と述べた。

  • オNTTデータグループ技術革新統括本部 プリンシパル・エンジニアリングマネージャ 濱野賢一朗氏

7月に提供予定のサービス「Prossione Virtualizationサブスクリプション」は、UIベースの管理ツール「Prossione Virtualization Manager」、ナレッジ・ドキュメント、プロダクトサポートを提供する。システムインテグレーションおよびトレーニングはオプションとして提供される予定。

Prossione Virtualization Managerは、複数のサーバ上の仮想マシンを一元管理・運用するための直感的なユーザーインタフェースを提供。

  • 「Prossione Virtualization」の概要

濱野氏は「新サービスのポイントはKVMを使った仮想基盤の課題を解決すること、管理ツールを提供することの2点。難しいといわれているKVMの管理をシンプルにする。KVMを使う上で技術的な課題を解決する」と語った。OSSは運用においてスキルが求められる点で、商用製品に比べて導入の敷居が高いという課題がある。

濱野氏は新サービスの特徴として、以下4点を挙げた。

ホストサーバ・仮想化マシンの一元管理

複数のホストサーバや仮想マシン、ストレージ、ネットワークなどの状態監視や構成管理をWebインタフェースおよびAPIで一元管理可できる。

高度な運用作業の実現

「Prossione Virtualization Manager」において、想マシンの別ホストサーバへの移動や仮想化基盤の構築・アップデート作業など、複雑な運用作業を一貫して実行できる。

そのため、高いスキルレベルがなくても、本来は高度な専門性を必要とする運用を行える。

  • ライブマイグレーションが可能

高可用性構成を標準で提供

ホストサーバ等のハードウェア故障時に、故障したホストサーバ上で動作していた仮想マシンを別のホストサーバ上で動かす仕組みを提供する。

  • 高可用性を実現する構成を標準で実現

継続的なソフトウェアアップデート

ソフトウェアアップデートによる新機能の追加対応を提供する。安定利用が重要視されるユースケース向けに、メジャーバージョンごとの長期サポートオプションの提供が予定されており、濱野氏は「何年とは言えないが、日本の企業のニーズに即した期間を考えている」と語った。

同サービスは7月にサービス開始以降、「Prossione Virtualization Manager」の機能拡充などを進めていくことが計画されている。冨安氏は「VMwareに100%追いつくことはできない」と述べたが、濱野氏は「1.2が完成形とすると 欲しい機能の75%~80%に至っているのでは」との見解を示した。

価格は最終検討中で、既存のプロダクトとの対比を判断基準にするという。「特定の製品を挙げられないが、手頃な価格で提供することを考えている」とのことだった。

  • 「Prossione Virtualization」の開発ロードマップ