スウェーデンに拠点を置くエンタープライズソフトウェア企業のIFSが好調だ。2024年度(1~12月)の業績は過去最高となり、ARR (年間経常収益) が前年比32%増の10億ユーロを超え、年間総収益は12億2800万ユーロとなった。

主力製品の「IFS Cloud」は、自社に適している機能をベストオブブリードで組み合わせることができる点が特徴で、SaaSだけでなくオンプレミスでも導入できる点も強みだ。米国、北欧、南欧、アジア太平洋・中東の4地域で80カ国以上の市場に参入しており、グローバルにおいて6500社以上の企業が同社のソリューションを導入している。

  • IFSの2024年度(1~12月)の業績は過去最高となった

    IFSの2024年度(1~12月)の業績は過去最高となった

日本市場への投資も加速しており、2024年7月には、国内ERP(統合経営基幹システム)を手掛けるワークスアプリケーションズ(WAP)と、国内向けシステム供給において提携。同社は高い技術力を持つ日本を次の「超成長市場」と位置付けている。

IFSが高成長を続けている要因は何だろうか。IFS グループCOO(最高執行責任者)のマイケル・オイッシ氏に直撃した。

  • IFS グループCOO(最高執行責任者) マイケル・オイッシ氏

    IFS グループCOO(最高執行責任者) マイケル・オイッシ氏

IFSが成長を続ける3つの要因

--率直に聞きます。IFSはなぜ、高成長を続けているのでしょうか。

オイッシ氏:3つの要因があると考えています。

1つ目は、6つの業界に特化していること。IFSは、製造、航空宇宙・防衛、エネルギー、サービス産業、建設エンジニアリング、テレコム通信の6業種に特化し、ERPとEAM(設備資産管理)に加え、FSM(フィールドサービス管理)とSLM(サービスライフサイクル管理)の4領域の製品を1つのプラットフォームで提供しています。

6つの業界だけに特化し、それぞれの業界知識を深めていることが、顧客企業やパートナー企業から評価されています。より深い業界知識を武器に、システムの標準機能に合わせて業務を変える「Fit to Standard」を提案しています。

  • IFSは6業種に特化してソリューションを提供している

    IFSは6業種に特化してソリューションを提供している

もともと6つの業界に絞っていたわけではありません。約7年前は多くの業界にソリューションを提供していましたが、われわれの強みを発揮するためにはターゲットを絞ることが重要だと気付きました。それぞれの業界に適したDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するケイパビリティを持っており、顧客企業の成功にコミットしています。

2つ目の要因は、シンプルにソリューションの質の高さです。IFSはすべての製品セグメントにおいてリーダーシップのポジションをとっています。EAMについては、ガートナーが2024年4月に発表した市場シェア調査で、IBMやSAPを抑えてトップになりました。また各製品に高度なAI機能も搭載しており、業務の自動化や効率化も実現できる点も強みの一つです。

  • すべての製品セグメントおいてリーダーシップのポジションを築いている

    すべての製品セグメントおいてリーダーシップのポジションを築いている

そして、3つ目の要因は、顧客の成功にコミットしていることだと考えています。常に顧客の声に耳を傾け、価値を生み出すためには何ができるのか、何をすべきなのかを考え抜き、変革できる道筋を提案しています。当たり前のことですが、一番重要なポイントだと考えています。

IFSのビジネスは、数十年前に、顧客の敷地内にテントを設営しソリューション開発にあたるところから始まっています。この企業DNAは今のIFSにも受け継がれているのです。

--近年は、産業用AIへの開発にも注力されています。

オイッシ氏:IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」の開発にも力を注いでいます。製品開発や製造、サプライチェーンや現場におけるオペレーションなど、産業の基本的なプロセスをAIで自動化し、改善につなげています。

  • IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」(写真はIFSのマーク・モファットCEO)

    IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」(写真はIFSのマーク・モファットCEO)

例えば、米国のエネルギー関連企業のトップ10社のうち8社がIFS.aiを導入している状況です。すでにIFS.aiの実績は多くありますが、AIによる成果が本格的に出てくるのはこれからでしょう。IFSは産業用AI業界のリーダー企業になることを目指しています。

日本企業が抱える課題をチャンスに

--日本市場をどう見ていますか。

オイッシ氏:日本市場には1997年に参入しました。トヨタ自動車や日本航空(JAL)、京セラといった日本を代表するさまざまな企業が、IFSのソリューションを導入しています。また、日本市場では長らくNECとパートナー関係にあります。

日本の企業は他の市場と比べて、長期的な関係を重視していると感じます。IFSのソリューションを導入してもらうことが一丁目一番地ですが、その後も長期的に信頼してもらえるような取り組みが欠かせません。

  • グローバルにおいて6500社以上の企業がIFSのソリューションを導入している

    グローバルにおいて6500社以上の企業がIFSのソリューションを導入している

日本は世界第4位の経済規模を誇っており、IFSの主要産業分野である製造業がGDPの約10%を占める「モノづくりの国」です。一方、多くの日本企業は労働力不足という課題に直面しています。

また、日本国内で「2025年の崖」として認識されているように、レガシーシステムの刷新が喫緊の課題となっており、多くの日本企業がDXを重要課題とする転換点にあると考えています。これを好機ととらえ、日本企業の生産性向上を支援していきたいです。

WAPとの提携では、異なる国や地域の業務ニーズに対して、標準機能でシステムを構成し「完全標準化」と「脱アドオン」の実現を目指しています。

また、ERPやEAM、AI関連サービスなどを手掛ける日本企業の買収も検討しています。すでに買収に向けて協議している日本企業もいくつかあります。日本独自の商習慣を事業に取り込み、日本国内の製造業を中心に基幹システム刷新のニーズに応えていく考えです。

--今後の戦略について教えてください。

オイッシ氏:これまでの戦略と基本的には変わりません。

6つの業界に特化し、顧客の成功にコミットし続ける。そして、戦略的な投資も継続し、それぞれの業界や地域に特化したソリューションを提供していきます。

特に機能のアップデートには注力し続けます。IFSでは年に2回、IFS Cloudの機能をアップデートしており、2024年10月にはFS.aiを活用した60を超える新機能を追加しました。

日本への投資も加速し、IFSブランドの認知度と評価を向上させていきたいと考えています。