三菱重工グループの三菱重工エンジン&ターボチャージャ(MHIET)が、相模原工場内に設置した水素エンジン発電の実証設備において、水素100%燃料を用いた運転での定格出力(435kW/1,500回転)を達成したと3月12日に発表。今後、安全性や信頼性の評価を進め、製品化に向けたプロセスを加速していく。

  • 水素エンジン発電セットの試験機(左)と、設備の構成(右)

今回の実証試験では、MHIETがすでに技術確立した、水素100%で安定燃焼できる単気筒エンジンではなく、実際の製品を想定した設備を使ったのが特徴。新たに自社設計・製造した6気筒500kWクラスの水素専焼エンジン発電セットを用意し、さらに都市ガスと比べて着火性や燃焼性が高く、高い安全対策が求められるという水素の特徴をふまえた安全機能を追加した補器類も装備。エンジン・発電機・補器類を含むシステム全体の検証を実施してきた。

今回、エンジンの起動から定格出力までの発電、停止動作までの実際の発電セット製品同様のシーケンスで、一連の動作をすべて水素100%燃料で安定的に運転可能であることや、異常時の保護機能などが有効に機能することを確認。燃料には、山梨県が取り組む「パワー・ツー・ガス(P2G)システム」(再生可能エネルギーの余剰電力と水から水素を製造するシステム)により、米倉山電力貯蔵技術研究サイト(山梨・甲府市)で生成されたグリーン水素を使ったという。

  • 水素専焼エンジン発電セット実証設備

  • 米倉山電力貯蔵技術研究サイト(左、出所:山梨県)、神奈川・相模原市での高圧水素ガスの水素供給設備への搬入(右)

MHIETは、水素専焼エンジン発電セットの設計、製作、実証に至るまでの工程を自社工場内で一貫して遂行する開発サイクルを構築しており、一連の実証試験で得た結果を迅速に製品に反映できるとアピール。今後の製品化に向け、信頼性評価や安全性評価を引き続き実施するとしている。

なお発電セットとは、エンジンの出力軸に発電機を組み付けた発電装置と、発電装置を運転するために必要な付帯設備(燃料ガス、潤滑油、冷却水、吸排気などの配管系統および発電機制御盤)、発電装置や付帯設備を格納し保護するエンクロージャーを含む、水素ガスエンジンを用いて発電するために必要な装置一式のことを指す。

レシプロエンジンはその機構上、さまざまな燃料を燃焼させられ、低・脱炭素社会の実現に向けた燃料転換(エナジートランジション)においても、重要な役割が期待される。なかでも水素専焼エンジンを用いた発電セットは、純水素を燃料とすることで、燃料の燃焼によるCO2を排出することなく、分散型電源の脱炭素化に寄与できるとのこと。MHIETは製品化に向けたプロセスを加速し、水素利用拡大による脱炭素社会実現をめざす。