Dynabookは3月10日、都内で同社のソリューション事業戦略についての発表会を開催した。発表会では、より安心・安全に生成AIを活用できる環境を提供するためのソリューションを提供していくという方針の発表に加え、同日受注を開始したXRグラス「dynaEdge XR1」のデモンストレーションも行われた。

「これまで以上にお客様の価値向上に貢献する」という覚道社長

発表会の冒頭には、代表取締役社長兼CEOの覚道清文氏が登壇。「AIが急速に進む中、安心・安全に生成AIを活用できる快適なオフィス・現場環境を提供すべく、高度な技術を駆使し、お客様の業務プロセスの効率化や売上拡大につながるソリューションのサービスをご紹介します」とこの日の発表内容を予告。具体的なサービスとして、「クライアントPCのLCM運用サービスの高度化」「安心なAI生成を支援するオンプレミス型のAIソリューション」「安全運転をサポートする新規テレマティクスサービスプラットフォーム」「自社開発のXRグラスによるオフィスでのワークスタイル」の4つを挙げた。そして「今後はハードウェアのみならず当社の独自ソリューションでこれまで以上にお客様の価値向上に貢献する」と語って挨拶を締めくくった。

  • 代表取締役社長 兼 CEO 覚道清文氏

    Dynabook株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 覚道清文氏

オフィス領域/新規事業領域のいずれもAI・先進デバイスの活用を図る戦略

ソリューション事業戦略については、執行役員 ソリューション事業本部長の熊谷明氏が説明した。

  • 熊谷明氏

    「dynaEdge XR1」を掲げる執行役員 ソリューション事業本部長の熊谷明氏

熊谷氏が掲げたのは「お客様に、安心して安全に生成AIを使っていただける環境を提供する」という基本方針。そしてオフィス領域でAI活用による業務効率化を図るものとして、3つのサービスを提案していくという。

  • 基本戦略

    AIと先進デバイスにより、PCビジネスからオフィス領域・新たな事業領域にビジネスを拡大していくという戦略

  • 安心・安全に生成AIを活用できるオフィス環境を提供するという基本方針

    「安心・安全に生成AIを活用できるオフィス環境を提供」するというのが基本方針

1つめは、この日受注開始となったXRグラス「dynaEdge XR1」を活用したサービス。このXRグラスを使うことにより、PCと接続すればディスプレイとして利用でき、画面をのぞきこまれるというような不安もなく、仮想的に3画面のマルチモニター環境を構築できるため、移動中の空間などをオフィスの延長として活用できるようになる。

  • XRグラスによる仮想デスクトップ

    「dynaEdge XR1」で仮想デスクトップ表示を行い、オフィスを拡張する

  • マルチモニター表示のイメージ

    筆者も実際に着用してマルチモニターの仮想デスクトップ表示を体験してみた。この写真は、「dynaEdge XR1」に表示される内容をPCの画面に表示したもので、メイン画面の左右にもマルチモニターの表示がされているのがわかる。現時点では解像度を考えると細かい作業には向かないが、ビデオ会議や文字の大きいプレゼンテーションの確認などには使えそうだった

2つめは、オンプレミス環境にAIワークステーションを設置し、そのうえで生成AIによるサービスを利用してもらうための導入・活用支援サービス。機密性が高い情報を扱う業務をAI化する際にはAIサーバーを社内に設置することが必要になるが、導入・活用支援や研修プログラムの提供などを行うことで、顧客企業に伴走していくという。

  • 生成AIの導入・活用支援サービス

    生成AIの導入・活用支援サービスの概要

  • 生成AIの導入について

    生成AIの導入についてのクライアント企業の悩みに伴走する。同社が現在も行っているクライアント向けのソリューションのメニューに生成AIの導入が加わるようなイメージか

  • AIワークステーション

    現時点では、AIワークステーションは他社製品を使用。導入のスピードを考えた選択だという

3つめはPCのライフサイクルマネジメント(LCM)の高度化だ。同社はPCメーカーとして、「PCメーカーだからできるLCMを提供している」と胸を張るが、さらにそれを高度化することを想定している。ここでもAIを活用することにより、バッテリー劣化につながる使い方をしている場合にアラートを出したり、業務とPCスペックが合致していないためにCPUやメモリーの負荷が高い状態が続いている端末を検出したりすることが可能となる。

なおLCMビジネスの拡大を想定し、キャパシティの拡大にも取り組んでいる。現在は千葉県・検見川に置かれたLCMセンターで月産4万台の対応を可能としているが、4月から順次稼働する大阪府・南茨木のLCMセンターにより、月産6万台の対応を目指すという。LCMセンターを複数化することは、BCP(事業継続計画)を担保する狙いもある。

  • PCライフサイクルマネジメント

    PCライフサイクルマネジメントもAIにより高度化する。LCMセンターの新設でキャパシティも拡大

このようにオフィス領域でAIを活用していくだけでなく、新規事業領域への取り組みも行っていく。そちらもキーワードは「AIの活用」。新規事業の取り組みとしては、「現場DX」「安全運転支援」の2つを挙げる。

  • 新規事業領域

    新規事業領域でもAIの活用を進める

「現場DX」は「dynaEdge XR1」を装着して、XRグラスの表示で業務を支援するイメージだ。具体的には、ピッキング作業の支援や遠隔からの作業支援などが想定されており、今後さまざまな場面に向けたソリューションが登場することでビジネスの拡大を目指すという。

  • XRグラスを活用した現場DX

    XRグラスを活用して現場DXを実現する

  • パートナー企業から出展されたマニュアル動画ソリューション

    こちらはXRグラスにマニュアル動画を表示しながら作業を行うソリューション。パートナー企業のEpisotechから出展されていたものだ

もうひとつの「安全運転支援」は、冒頭に覚道社長が挙げたテレマティクスサービスのことで、具体的にはドライブレコーダーによる安全運転支援ということになる。今後はドライブレコーダーがLTE/Wi-Fi/Bluetoothなどで通信を行いながら稼働し、事故が起きればクラウドにそのデータを送信して対応を行う。その一方で、端末内のエッジAIにより、危険運転を察知してアラートを出すといった機能ももつ。クラウドAIとエッジAIの双方を利用して安全運転支援を行うというのがポイントだ。

現在同社は企業の安全運転管理者を対象として車両運行管理ポータルを提供しているが、今後はそれをさらに拡張し、クラウドAIによる安全運転指導なども提供していきたいとしている。

  • 安全運転支援の概要

    安全運転支援の概要

熊谷氏はオフィス領域/新規事業領域で提供していくこれらのソリューションサービスを紹介したあと、最後に「AIを中心として、AIと人をつなぐ先進デバイスを提供しながらビジネスの拡大をはかっていきたいと思います」と、事業戦略の中心にAIを据えることを強調し、話をしめくくった。

「dynaEdge XR1」についてもあらためて紹介

熊谷氏に続いては、ニューコンセプトコンピューティング統括部 NCCソリューション戦略部 部長の小川岳弘氏が「dynaEdge XR1」を紹介した。ただし、「dynaEdge XR1」についてはすでに2024年12月に製品発表が行われている。このため、この日はハードウェア面での紹介などは割愛され、どのような機能を利用できるのか、とくにAIの支援を受けるためのデバイスとしての紹介が中心となった。

  • ニューコンセプトコンピューティング統括部 NCCソリューション戦略部 部長の小川岳弘氏

    ニューコンセプトコンピューティング統括部 NCCソリューション戦略部 部長の小川岳弘氏は「dynaEdge XR1」を装着して登壇

  • XRによるAI支援の利用イメージ

    「dynaEdge XR1」によって、いつでもAIの支援を受けられるようになる

なお3月10日には「dynaEdge XR1」(およびコントローラーの「dynaEdge C1」)の受注が開始となっている。販売形態はソリューションと合わせての提供を予定しており、出荷開始の時期は2025年春ごろとのこと。

小川氏の紹介の中で、「dynaEdge XR1」で利用できるAIアシスト機能として挙げられた主な機能としては、「会話アシスト」「ビューサーチ」「ビジュアル翻訳」「ドキュメント要約」「音声質問」といったものが挙げられた。いずれも、「dynaEdge XR1」を装着していればその画面内で完結して利用できる機能だ。

「会話アシスト」は、装着者が他の人と交わした会話を文字起こししてテキストとして記録する機能。単に文字起こしをするだけでなく、会話に登場したキーワードの解説を表示したり、内容を翻訳したりといったことも可能。「ビューサーチ」は視野内のオブジェクトについて自動で検索し、その解説を表示する機能。「ビジュアル翻訳」は、視野内の文字列を識別してその翻訳をオーバーレイ表示する機能だ。

  • 「会話アシスト」「ビューサーチ」「ビジュアル翻訳」の概要

    「会話アシスト」「ビューサーチ」「ビジュアル翻訳」の概要

  • 「会話アシスト」の画面

    「会話アシスト」機能では、左カラムの会話ログを表示するとともに、右カラムにはキーワード表示が行える

「ドキュメント翻訳」は「dynaEdge XR1」のカメラで資料などを撮影し、それを文字認識してAIがようやくを表示させる機能。そして「音声質問」は、装着者が音声で行った質問を「dynaEdge XR1」のマイクで認識し、音声や画面への表示で回答するという機能になる。

  • 「ドキュメント要約」「音声質問」の概要

    「ドキュメント要約」「音声質問」の概要

これらの機能は、同時利用するコントローラー「dynaEdge C1」を介してWi-Fiなどでインターネットに接続し、クラウド処理を行っている。「dynaEdge XR1」はソリューションと合わせての販売が想定されているので、これらの機能についても、導入する企業が必要とするものを自社向けのソリューションとして組み込む形で提供される想定だ。

ソリューションは自社だけでなくパートナーとともにラインアップを広げていく方針。説明会会場にも、パートナーが提供するソリューションがいくつか展示されていた。

  • パートナー企業

    協業するパートナー企業。この日の発表会では、パートナー企業のパーソルテクノロジーからも登壇者を招いていた

AIアシスト以外の「dynaEdge XR1」の機能としては、スマートフォンと連携しての発着信/通話や通知の確認、カメラ機能を利用した拡大鏡/録画さかのぼり/写真撮影・再生といったものが利用できる。また前述のとおり、PCと接続すれば3画面表示で仮想デスクトップを利用することも可能だ。

同社はこれまでに単眼型のスマートグラス「AR100」などの提供を行っており、それらを活用するソリューションサービスを提供してきた。「dynaEdge XR1」の提供開始により、現場向けサービスを拡充し、従来製品ではカバーできなかった領域にも進出していく方針だ。

  • XRソリューションの展開イメージ

    XRソリューションの展開イメージ

  • 発表会後のフォトセッション

    発表会後のフォトセッションにて