
異なるメーカーのロボットを制御
新潟・見附市にある化粧品・日用品、一般用医薬品卸のPALTACの大型物流施設の1つである「RDC新潟」。出荷工程で稼働するロボットアーム8台が3種類の異なる什器へ段ボールケースを積んでいく。しかも、ロボットアームの動きは毎回微妙に違う。箱の形状に合わせて、什器上の適切な場所に次々と置いていく。そして、そこには人の姿はない。
この世界が実現されるためには、ある技術が必要だった。それが「産業用ロボット制御技術」。簡単に言えば、複数のロボットを統合制御する〝頭脳〟だ。頭脳がなければ、従来の産業用ロボットはあらかじめ教えられた動きを繰り返すことしかできない。また、動き方を変えるためには、その都度、新たなプログラミングや動作を教えるティーチングが必要。それだけで多大な労力と時間がかかるのだ。
しかし、ロボットを統合制御する頭脳があれば、個々のロボットの部分最適な動きを他のロボットなどとも組み合わせて全体最適にまで調和できる。さらに、異なるロボットメーカーのロボットも制御できる。それを手掛ける企業が2011年に誕生したMujinだ。同社の「Mujinコントローラプラットフォーム」はトヨタグループをはじめ、アスクル、SUBARU、ファーストリテイリングなど大手企業に導入されている。
「既存のハードでは扱う製品が異なる度に改良が必要だった。しかし、当社のシステムを導入し、ロボットアームにカメラやセンサーを取り付ければ、形が異なる箱でも、ピックアップする順番や置く位置をロボットが自分で判断し、パレットなどの上に積み上げることができる」と取締役営業本部長の嶋田岳史氏。
物流現場なら搬送ロボットのAGV(無人搬送車)が的確なタイミングで保管場所に持っていく。さらに、製品の種類も判断し、あまり使われない長期保管用の製品は奥の方に置くといったことまでも独自ソフトウェアのアルゴリズムで行うという。
同社の創業者の1人でCEOの滝野一征氏の言葉を借りれば、「オーケストラは世界に冠たる演奏者を揃えていたとしても、それぞれが自分勝手に演奏していては素晴らしい音楽にはならない。大事なことは、オーケストラの演奏者を束ねる指揮者が必要であるということ」だ。
創業わずか14年という企業だが、技術力への評価は高く、推計企業価値は1000億円を超える。同1500億円以上の未上場企業を指すユニコーンに近い存在になっている。人手不足が深刻な経営課題となり、トランプ第2次政権によって国際間の政策が目まぐるしく変わる中、嶋田氏は「引き合いは増えている」と現状認識を語る。
もちろん、Mujinも当初は苦労した。ロボットメーカーから自社のコアともいえる制御関連の情報を提供してもらう必要があったからだ。知名度がなかった当初は「相手にされなかった」(同)が、各ロボットメーカーのハードウェアとMujinのソフトウェアが調和することで、これまで自動化が難しかった新たな市場に参入できるようになっていったため、次第に理解者も増えていった。
アクセンチュアが組んだ理由
このMujinに注目したのがコンサルティング大手のアクセンチュア。昨年、両社で新合弁会社「Accenture Alpha Automation(AAA)」を設立した。アクセンチュアと言えば、世界中のクライアントの全社変革を支援し、戦略などのコンサルティングやシステム開発、マーケティングなどで存在感を示している。なぜ同社がMujinと手を組むのか。
「日本の製造業にはまだまだ潜在力がある。ただ、これまでのような画一化された規格を大量に製造するビジネスモデルでは世界に勝てないと分かった。今後求められるのは変化やニーズに応じて一番売れる商品を少量多品種で対応できる仕組みだ」とAAA社長のル フィリップ氏は強調する。Mujinの現場データとアクセンチュアの経営データを連携させることで、製造現場などの効率化を目指す。
例えば、自動車業界ではクルマの主流が電気自動車(EV)に代わり、それまでの内燃機関の仕組みが通用しなくなりつつある。「中国のEVメーカーは300台でも3カ月で新車を開発できる」(同)。その変化のスピードに対応できていないというのがル氏の日本の製造業に対する危機感になっている。
しかし、経営から現場までがデジタルの世界で現実の製品や設備の配置などを再現することができれば、デジタルツインを実現することができる。1つの生産ラインで需要に応じてEVやハイブリッド車、ガソリン車などを生産できるわけだ。巨額な資金と時間をかけて新たな工場を建設する必要もなくなる。
ル氏は「経営レベルではアクセンチュアが新しいアイデアを提案できるが、実際に現場で実装する手段がなかった。アクセンチュアとMujinが組んで経営から現場までをつなげれば、それができる」と話し、かつての日本の家電メーカーや半導体メーカーが凋落した歴史を繰り返さないで済むと期待を込める。
世界のコンサル大手も惹きつけるMujin。これまで日本の製造業は多品種少量生産が弱点とされ、中国などの単品種大量生産による価格破壊で後塵を拝してきた。しかし、弱点が今後は強みに代わる可能性が出てきている。それを実現できるかどうかは両社の腕にかかっている。