島津製作所は、高精度な「光格子時計」として世界初の商用機「Aether clock OC 020」(イーサクロック)の受注販売を3月5日に開始。各国の標準機関や大学・研究所などへの設置を見込み、時間基準だけでなくさまざまな用途に活用できるとする。価格は5億円だが、システム構成により変動する。

  • ストロンチウム光格子時計「Aether clock OC 020」

光格子時計は原子時計の一種で、現在の「秒」の定義の基準となっているセシウム原子時計に対して100倍以上の精度を実現。18桁精度は100億年に1秒の誤差に相当し、光格子時計は次世代の「秒」の定義の有力な候補として注目されているという。

仕組みとしては、「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光で作った入れ物(光格子)に、原子をひとつずつ捕獲し、原子同士の相互作用が起きない状態で原子の振動数を精密に測定。光格子全体には多数の原子を捕獲でき、原子の振動数を一度に測定して平均を取ることで、短時間で高い精度が得られるという。

  • 光格子時計の模式図。原子(球状)がレーザー光の干渉で作られた微小空間(卵パック状の光格子)の中に捕獲されている。光格子は「魔法波長」と名付けられた特別なレーザー波長で構成したもの

島津製作所は2017年から、東京大学の研究グループと光格子時計に関する共同研究を開始し、東京スカイツリーでの一般相対性理論の検証実験(2020年)において、光格子時計の制御システムを開発。その後、搭載レーザーや今回の新製品の開発を手がけ、小型化に加えてレーザーの堅牢性の向上、レーザー周波数の自動調整・制御技術の開発を実現し、世界初の製品化への道筋を付けたとのこと。2024年11月には、装置体積250Lという小型化にも成功している。

  • 光格子時計の物理パッケージ。空間的な均一磁場を発生させるためのコイルや黒体輻射シールドを真空槽内に組み込んでいる。(A)は磁気シールドを付けた外観、(B)は磁気シールド内に設置された真空槽

  • 光格子時計のレーザー/制御システム(フロントカバーを取り外した状態)。コネクター類はフロント部に集約し、メンテナンス性、運用性を向上させている

従来の光格子時計ではひんぱんに調整する必要があったが、新製品では作業者の負荷を大幅に低減する設計になっており、小型化で移設しやすくなったことで、さまざまなフィールドで一般相対性理論を利用した重力ポテンシャル測定に応用できるという。同社では一例として、「数cm精度のプレート運動や火山活動による地殻の上下変動の監視」や、「数時間から数年かけて起こる地殻変動(標高変化)の精密な観測」、「超高精度な標高差計測・測位システムの確立」などを挙げている。

一般相対性理論は、アルベルト・アインシュタインによって築かれた、「重力の大きい場所では時間の流れが遅くなる」という現代物理の基本理論。前出の2020年に実施された検証実験では、東京スカイツリーの天望回廊(地上450メートルの高さ)と地上階に2台の光格子時計を設置し、その進み方の違いを測定。その結果を国土地理院が測定した標高差と比較することで、一般相対性理論を従来の衛星を使った実験に迫る精度で検証することに成功していた。

  • レーザー/制御システムの機能分割したモジュール構成。各機能は、機能ごとに分割した交換可能なモジュール構成として設計することで、運用時の保守性を高めた

  • 19インチラックに組み込んだ250L光格子時計。レーザー冷却された原子を光格子中に捕獲し、低温に冷却した恒温槽の中で時計遷移を高精度に分光する。時計分光用真空槽を含んだ物理パッケージ、光共振器、レーザー/制御システムを搭載