宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月25日、イプシロンSロケット第2段モーターの再地上燃焼試験で発生した爆発事故について、原因調査の最新状況を説明した。前回の報告から2カ月。この間、FTA(故障の木解析)による分析を進め、いくつかの要因は排除できたものの、原因特定につながる有力な手がかりはまだ見つかっていない。

  • JAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャ(左)と、岡田匡史理事/宇宙輸送技術部門長(右)

海中の部品が解明のカギになるか?

再地上燃焼試験での爆発は、2024年11月26日に発生した。前回の説明会はその1カ月後に開催されており、本格的な原因調査に着手したばかりという段階であったが、その後、設計・製造・検査の各データや、事故後に回収できた部品の分析を進め、5次まで枝分かれが伸びたFTAによって、詳細な評価が行われた。

この燃焼試験では、以下の3つの異常が確認されている。今回のFTAでは、この3つの異常をトップ事象として展開。これについて、概要は前回のレポート記事も参照して欲しい。

今回の報告で最も注目したいのは、爆発で飛散した部品の回収状況と分析結果である。爆発により、多くの部品が海側に吹き飛んだが、海中の探索を続けてかなりの部分を回収できたことが分かる。

  • 回収状況と分析結果
    (C)JAXA

ノズルとジョイントホルダ(ノズルとモーターケースをつなげる金属部品)は、すべて回収に成功。表面にリーク痕が見当たらなかったことから、FTA(B)において、ガスリークの発生場所から除外することができた。ガスリークはジョイントホルダより外側で起きたことになるが、外側のどの場所かについては、まだ検証中で結論は出ていない。

モーターケース側の部品としては、このほかにボスやリテーナリングといったリング状の金属部品もあるが、これはリテーナリングの一部以外、まだ発見されていない。もし発見できれば原因調査が大きく進展する可能性もあり、残った部品については、期限を設けずに海中探索を続けるという。

  • ガスリークに関するFTAの状況
    (C)JAXA

FTA(C)の爆発において、大きな謎は「なぜ規定値以下の圧力で爆発したのか」ということだ。これについては当初より、熱による複合的な要因が疑われていたが、調査によって、製造不良や組立不良は要因から排除。熱以外の要因もすべて原因ではないと判断され、結果的に、熱に起因する要因のみが残った。

  • 爆発に関するFTAの状況
    (C)JAXA

爆発の原因には熱が関わっているらしいということまでは確認できたものの、応力の過大なのか材料強度の低下なのか、入熱が内部からなのか外部からなのかは、まだ特定できていない。

JAXAの井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャによれば、モーターケースは「100度くらいまでなら大丈夫な設計になっている」とのこと。モーターケースの内側はインシュレーション(断熱材)で守られていたはずなのだが、回収品の調査で焼損が予測より大きかったことが分かっており、関連が気になるところだ。

リーク/爆発に至る2つのシナリオ

そしてFTA(A)の燃焼圧力上昇については、事前予測が誤っていた可能性は排除。製造や組立にも問題はなかったことが確認され、「設計想定外の燃焼中の異常」のみが残った。要因としては、推進剤の燃焼面積の増加か、燃焼速度の増大が考えられるが、そのどちらも複数の要因がまだ残っている。

  • 燃焼圧力上昇に関するFTAの状況
    (C)JAXA

ただ、製造検査データは基本的に問題がなかったものの、1つだけ特記すべき事項が見つかった。それは、推進剤とインシュレーションの間に、長さ約65mmの隙間があったということ。隙間は当然存在しないことが理想だが、製造工程上どうしても発生し得るもの。65mmというのは大きめではあるが、原因につながるものであるかは現時点で不明だ。

  • 推進剤とインシュレーションの間に見つかった隙間
    (C)JAXA

この検査は本来、隙間を探すのが目的ではないため、90度間隔でしか調べておらず、他の場所にも隙間があるかは不明。隙間によって燃焼面積の増加につながる可能性はあるものの、井元プロマネは「かなり大きな隙間があったと仮定しても、燃焼圧力が1%くらい上がった後に差がなくなる程度」と補足。すぐに異常につながるようなものではないとした。

以上が、現時点でのFTAの解析状況だ。3つのトップ事象については、それぞれまだ原因を絞り切れていない段階ではあるが、JAXAは今回、初めて爆発に至るシナリオとして、代表的な2ケースを明らかにした。

ケース1は、何らかの理由によりインシュレーションの気密が喪失し、高温の燃焼ガスがモーターケースに接触。素材であるCFRPの樹脂が溶けてリークが発生し、さらに強度が低下したことで爆発に至ったという想定だ。

ケース2は、インシュレーションの気密喪失、またはインシュレーション端部からのガスの侵入により、ボス部分が剥離・破断し、リークが発生。ボス部分の脱落とCFRPの破断で爆発した、という想定である。

  • 想定される2つのシナリオ。だが、何がこれを引き起こすのかという肝心な部分がまだ分からない
    (C)JAXA

しかし、現時点ではまだ決め手に欠けており、このどちらかが起きたのか、あるいは別の現象だったのかは、なんとも言えない。ただ、前述のようにボス部分はまだ回収できておらず、これを見つけることができれば、ケース2と特定できるか、あるいはケース2を排除できる可能性があり、いずれにしても大きな進展になる。

JAXAは今後、海中探索を続けるほか、追加の解析や試験を行うことで、要因のさらなる絞り込みを進める。次回の報告がいつになるかは未定。調査が難航すれば長期化する可能性もあるが、引き続き注目していきたい。

設備は2025年秋頃の復旧完了予定

今回の爆発によって、種子島宇宙センターの試験設備は大きな損傷を受けた。その復旧状況であるが、外観の点検により、再製作と流用に大別。損傷が激しい後部側の設備は再製作となり、すでに撤去を完了した。流用するする前部側の設備については、さらに健全性の確認を進め、問題が見つかったものについては再製作する方針だ。

  • 赤枠の設備が再製作。後部側に集中している
    (C)JAXA

現在、再製作の準備を進めているところで、2025年秋頃の復旧完了を目指すという。ただ、再々燃焼試験を実施するには、それから準備期間も必要になるし、そもそも原因を特定して対策が完了している必要がある。イプシロンSロケットの初打ち上げの時期については、まだ判断できる材料がない状況だ。

同ロケットの初打ち上げは、2回の爆発によって、すでに大幅に遅れている。しかし、急いで間違った結論に飛びつくことになれば、よりダメージは大きくなってしまう。記者説明会の冒頭に、岡田匡史理事/宇宙輸送技術部門長が述べたように、「焦らずに技術に向かい合うことが一番の近道」なのだ。

  • 復旧のスケジュール。再々燃焼試験を種子島で実施するかどうかはまだ決まっておらず、能代ロケット実験場の状況も見ながら決定するそうだ
    (C)JAXA