筆者は通勤時に「Spotify」で好きなアーティストの音楽を聴き、休日には「Netflix」や「Amazonプライム・ビデオ」で気になる映画やアニメを観る。ドライブがしたくなったら契約しているカーシェアリングの「タイムズカー」で車を借り、仕事中は業務効率化のために米OpenAIが提供する生成AIツール「ChatGPT」の力を借りている。
私たちの生活には、音楽や動画、車、ソフトウェアなどを所有せず定額料金で使うサブスクリプション(サブスク)サービスでありふれている。多くの人が「サブスクを使わない日はない」と感じていることだろう。
一方で、サブスクサービスを提供する事業者にはビジネス変革の波が押し寄せている。
「従来のサブスクでは十分ではない。持続的な成長を実現するためには、ユーザーと市場のニーズに応じて収益化の方法を進化させる必要がある」ーー。こう語るのは、サブスクビジネスの導入・運用支援を手掛ける米ZuoraのTien Tzuo(ティエン・ツォ)最高経営責任者(CEO)だ。
ツォCEOは「今後、サブクスの課金プランや支払い方法にはより多くの選択肢が求められる」と指摘する。世界におけるサブスクビジネスの現在地と、事業者に迫っているサブスクビジネスの「変革」とは。これらの質問を抱え、ツォCEOに直撃した。
収益化モデルの変革が必須
--さまざまな業界でサブスク型ビジネスが広がっています。ここまで普及した要因は何でしょうか。
ツォCEO:サブスクリプションとは、定額制で製品やサービスを利用者に提供するビジネスモデルのことで、2018年前後から世界中で注目されています。
サブスクがここまで普及した要因の一つとして、ITやインターネットの進化があげられます。インターネットが普及する前は、ソフトウェアはパッケージ販売されていて、バージョンアップや修正したソフトウェアを発売するのには長い時間を要していました。
ですが、ITやインターネットが普及したことに伴い、大きなデータをやりとりすることができるようになり、ソフトウェアをインターネット上でダウンロードして直接購入することが可能になりました。
購入するには高額な商品やサービスを安価に利用できるだけでなく、モノを所有する必要がなくなるなどユーザーにとっては利点が大きい。ユーザーだけでなく、サブスクは事業者にとってもメリットが大きいです。
特に売上に関するメリットが大きいです。毎月一定の売上を得られ、継続して安定した売上を得ることができます。また、新規顧客を獲得しやすく、利用者のデータを分析・活用できるのもサブスクビジネスの大きなメリットです。
消費者の意識が変化したこともサブスクが普及した要員の一つでしょう。若者を中心として「消費離れ」や「所有欲離れ」という意識の変化が見られ、契約期間でのみ商品やサービスを利用するという体験が広がったと考えられます。
日本においてもサブスクビジネスは広がっています。
ツォCEO:当社は世界中の1000社以上にサービスを提供しており、日本国内においてもトヨタ自動車やソニー、朝日新聞社、富士通、三菱電機、SmartHRといった各業界のトップ企業がZuoraの製品を導入しています。
他の国に比べても日本でのサブスクの普及スピードはとても早いです。新聞社や総合電機メーカー、SaaS企業などで特に採用が進んでいて、車や家電もソフトで稼ぐ時代に突入しています。
一方で、日本国内の消費者は、サブクスの課金プランや支払い方法に関してより多くの選択肢を求めています。サブスクビジネスで最も多く採用されている「月額定額プラン」だけではユーザーのニーズを満たすことが難しくなっており、競合製品との差別化競争も過熱している状況です。
また、ここ数年で生成AIを活用したサブスクを提供する企業も増えていますが、単なる定額課金の値上げでは対応しきれなくなっているのが現状です。従来の方法で売上を伸ばすのは容易ではありません。
もはや、従来のサブスクでは十分ではなく、顧客や市場のニーズに応じて収益化のモデルを変革させる必要があるのです。
顧客一人ひとりに最適なサービスと課金体系を
--サブスクビジネスを展開する企業には、具体的にどのような「収益化のモデル」への変革が求められますか。
ツォCEO:複数の収益化のモデルを実現し、ユーザーの選択肢を広げる必要があると考えています。
収益化のモデルを少数に絞ってビジネスを展開すると、顧客ニーズとその顧客を獲得する手段が限られてしまいます。この方法で売上を伸ばすのは極めて困難です。収益化の方法は常に「動的」でなければなりません。
そのため「レベニューモデル」「パッケージング」「プライシング」の組み合わせから、最適な収益化モデルを導き出そうとしている企業は少なくありませんが、それだけでは不十分だと考えます。なぜなら、顧客のニーズと市場は常に変化しているからです。
こうした状況に対応するためには、「トータル・マネタイゼーション」というビジネスモデルへの転換が欠かせません。顧客ニーズの多様化に対応し、サブスクリプションや従量課金、買い切りなど、あらゆる収益モデルを統合することで、顧客一人ひとりに最適なサービスと課金体系を提供することが可能になります。
企業が今後やるべきことは、顧客データに基づいて、適切な収益化のモデルを提供して差別化を図ること。また、顧客ニーズの変化を捉えながら、競合他社よりも柔軟に収益化のモデルを絶えず進化させること。そして、収益化のモデルのデザインから収益認識までのプロセスを一気通貫でサポートする仕組みを構築することが重要です。
--サブスクビジネスを展開する企業が「トータル・マネタイゼーション」を実現するために、Zuoraではどのような支援を行っていますか。
ツォCEO:トータル・マネタイゼーションを構築・運用・成長させるためのプラットフォーム「Zuora Monetization Suite」をはじめ、2024年4月に買収した「Togai」の従量課金ソリューションを日本国内でも提供しています。
本ソリューションはまず、複数のシステムから使用量データを収集して課金単位に変換します。そして、使用量に基づいてサブスクの契約ごとの金額を算出し、使用量と請求金額を可視化。既存の請求システムで請求書の発行が可能で、規模の拡大にも対応できます。約1カ月と短期間で導入できる点も特徴です。
企業が従量課金サービスを始める場合の課題は少なくありません。自社開発の場合、仕組みを準備するのに時間とコストがかかることや、課金モデルを変える際に回収に時間がかかってしまうこと、大量の生イベントデータを収集・計測する基盤がないことなどが挙げられます。
またマニュアル作業で運用する場合も、バックオフィス業務に多大な時間がかかりミスが多発するケースも考えられます。Zuoraの従来のプラットフォームがなくてもTogaiだけで従量課金が手軽に始められ、エンドユーザーの利用状況を可視化することで、柔軟な料金プラン提供の実現につながります。
Togaiには、接続先となるアプリケーションのコネクタが複数用意されており、数クリックで連携できます。連携したデータをTogai上で可視化することができ、例えば、「一定期間ディスカウントすべきか、一定利用量ディスカウントすべきか」などを比較検討することに役立てられるでしょう。
--最後に、日本市場における今後の戦略について教えてください。
ツォCEO:日本法人の業績は非常に好調です。
新聞社では国内売上トップ4社のうち3社が、総合電機メーカーではトップ10社のうち7社が、自動車業界ではトップ5社のうち3社がすでにZuoraの製品を導入しています。欧米や日本で急成長しているSaaS企業の多くはZuoraを採用している状況です。
11月には、日本市場向けに新規データセンターを稼働開始しました。日本国内データストレージでのデータ保護とプライバシーを強化につなげ、処理速度を従来と比べ約30倍まで引き上げます。
データセンターを日本に設けたことは、長期的に足腰を据えて日本にコミットしていくことの証です。サブスクビジネスをすべての企業に成功してもらうことが我々の使命で、ミッションです。