Amazon Web Services (AWS)は現地時間2月27日、「量子エラー訂正の実装コストを最大9割削減できる」という、新しい量子コンピューティングチップ「Ocelot」(オセロット)を発表した。

  • AWSが開発した、新しい量子コンピューティングチップ「Ocelot」

同チップは、AWSの量子エラー訂正アーキテクチャの有効性をテストするために設計した、量子コンピューティングチップのプロトタイプ。カリフォルニア工科大学のAWS量子コンピューティングセンターのチームが開発したもので、「従来のコンピューターでは解決できない商業的、科学的な問題を解決する、フォールトトレラント量子コンピュータを構築するための追求におけるブレークスルー」とアピールしている。

エラー訂正のために新しいアプローチである「cat qubit」(ネコ量子ビット)を使っているのが特長で、特定のエラー形式を“本質的に”抑制し、量子エラー訂正に必要なリソースを削減できるという。なお、cat qubitという名称は「シュレーディンガーの猫の思考実験」にちなんで名付けられたもの。

AWSでは、「オセロットアーキテクチャで構築した量子チップは、エラー訂正に必要なリソースを現在のアプローチの5分の1程度まで抑えられ、実用的な量子コンピュータの実現を最大5年早めるだろう」としている。

Ocelotチップは、2つの統合シリコンマイクロチップでできており、各チップの面積は約1平方センチメートル。電気的に接続されたチップスタックで互いに接着し、量子回路要素を形成する超伝導材料の薄い層を各チップの表面に備えている。

14個のコアコンポーネントで構成し、この中には5つの「データ量子ビット(ネコ量子ビット)」、データ量子ビットを安定化するための5つの「バッファ回路」、データ量子ビットのエラー検出のための4つの「追加量子ビット」を含む。

ネコ量子ビットは、計算に使用される量子状態を格納するために、安定したタイミングで繰り返し電気信号を生成する発振器を必要とする。Ocelotの発振器は、タンタル(Tantalum)と呼ばれる超伝導材料の被膜でできており、発振器の性能を向上させるために、シリコンチップ上にタンタルを施す特別な方法を開発して実装したという。

量子コンピュータの大きな課題のひとつが、環境内のわずかな変化や、ノイズへの敏感さ。振動や熱、携帯電話や無線LANの電波干渉、さらには宇宙からの放射線なども、量子計算にエラーを引き起こす可能性がある。このため、エラーのない計算を実行できる量子コンピュータを構築することは非常に難しく、法外なコストもかかったとのこと。

AWSの研究者は、Ocelotの開発にあたり量子エラー訂正を最優先事項として設計。「Ocelotを本格的な量子コンピュータへと拡張するには、一般的な量子エラー訂正のアプローチに対して、わずか10分の1のリソースで実現できるだろう」と述べている。