KDDIは2月26日、リテール向け店舗開発ソリューション「KDDI Retail Data Consulting」の「店舗開発支援パック」および「マーケティング活用パック」について、生成AIが新店舗の出店候補地や広告掲出・プロモーション候補地を提案する新機能を追加したことを発表した。

同ソリューションはKDDIが保有する行動ビッグデータに加え、各種オープンデータやユーザー企業が保有するデータを統合して分析可能だ。AI時代の新たなビジネスプラットフォームとして同社が打ち出す「WAKONX(ワコンクロス)」がリテール業界向けに展開する「WAKONX Retail」の具体的なソリューションとして、リテール業界が継続的に利益創出できるモデルへの変革に貢献するとのことだ。

  • 生成AIによる新機能のイメージ

    生成AIによる新機能のイメージ

KDDI Retail Data Consultingの概要

リテール業界においては都市開発やワークスタイル変革による急激な人流の変化に対する需要把握が重要とされ、人流データの活用などに期待が集められている。しかしその一方で、収集した人流データなどを効果的なマーケティングに活用するためには、高度な技術と専門知識が必要であり、従業員の経験や勘に頼らざるを得ない課題が残されていた。

また、スーパーや飲食店などでは新店舗を開発する際に、出店候補地を絞り込むために広範な商圏分析や人流データの収集が必要とされており、総当たり的に候補地の調査を行うなど多くの工数とコストが発生していた。

これらの課題に対して同社は2024年8月に、モバイル端末の位置情報データやサービス利用状況から推定した興味関心データと、各社が保有する店舗売上および会員情報などのデータを組み合わせてダッシュボード化する店舗開発ソリューション、「KDDI Retail Data Consulting」を発表していた。

  • KDDI Retail Data Consulting

    KDDI Retail Data Consulting

同ソリューションは、購買者数や属性を計測する「マーケティング活用パック」、店舗単位での売上予測が可能な「売上予測支援パック」、出店候補地の評価が可能な「店舗開発支援パック」、在庫の改善見込みを算出する「在庫可視化・最適化パック」、店舗単位での商品棚最適化を支援する「品揃え最適化パック」の5つのパックで課題解決に寄与する。

  • KDDIが持つデータの強み

    KDDIが持つデータの強み

今回、このソリューションに生成AIによるAIアシスタント機能を追加したことで、新店舗の出店候補地や広告掲出場所をチャット形式で自然言語で質問できるようになった。質問に対しAIは根拠となるデータと共に候補地を町丁目単位で提案する。KDDIが保有する行動データや位置情報を活用しているため、正確な属性データと細かな粒度での分析が特徴となる。

居酒屋の出店候補地をAIに質問

新機能の追加により、「カフェの出店をするならどこがふさわしいでしょうか?」といったプロンプトを入力することで、生成AIが条件に適した出店候補地を町丁目単位で提案できるようになった。

単に「カフェ」と入力するだけでなく、「赤ちゃんを連れたお客さまが利用するのに適したカフェ」など、細かな条件を付けたプロンプトにも対応可能。生成AIの応答時には日中滞在人口や居住者人口、周辺の競合状況など、提案の根拠として参照したデータも同時に提示する。

そのため、コストや時間といった業務負荷の高いマーケティング調査や出店候補地の絞り込みなどの店舗開発業務を効率化し、高度なスキルや熟練した経験を持たない場合でも店舗開発業務を開始できる。

実際に、店舗開発業務未経験な筆者も、居酒屋を出店する想定で「KDDI Retail Data Consulting」のデモンストレーションを体験した。

まず、世田谷区を選択し「居酒屋を出店したいのですが、どの場所がいいでしょうか」とAIに質問すると、AIが「仕事終わりの社会人」をターゲットに選定し、30~40代男性の夜間滞在人口を提示。加えて、周辺の飲食店の競合状況や飲食店の需要の指標としてファミリーレストランの出店状況を示した。

夜間滞在人口は鎌田二丁目、経堂一丁目、砧三丁目などが多く、仕事終わりに居酒屋を利用する可能性があるため、出店するのに適していそうだ。

  • 単に「居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

    単に「居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

次に、「仕事終わりの社会人をターゲットにした居酒屋を出店したいのですが、どの場所がいいでしょうか」と質問した。この場合も同様に、30~40代男性の夜間滞在人口とファミリーレストランの出店状況を示した。

  • 「仕事終わりの社会人をターゲットにした居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

    「仕事終わりの社会人をターゲットにした居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

続けて、「デートにも使える居酒屋を出店したいのですが、どの場所がいいでしょうか」と質問したところ、先の結果とは異なり20代の男性・女性の夜間滞在人口が示された。デートでの利用を想定する場合は、若年層の男女バランスを考慮したエリアへの出店が求められる。

  • 「デートにも使える居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

    「デートにも使える居酒屋を出店したい」と入力した際の応答

開発担当者によると、同ソリューションはKDDIが保有する人流データを活用しているため、前月時点の鮮度と精度が高いデータがソースになっているという。国勢調査の結果に基づく類似のソリューションもあるが、KDDIはよりリアルな人口や居住者のデータを反映している点を強みとしている。

同ソリューションは今後、飲食店やリテール業界向けだけでなく、フィットネスジムの新規出店や広告掲出先の分析などにも応用できるよう開発が進められるとのことだ。

  • リテール業界以外での活用も期待できるという

    リテール業界以外での活用も期待できるという