岡山大学、名古屋大学(名大)、基礎生物学研究所(NIBB)の3者は、これまでコラーゲンが皮膚の中でいつ、どこで、どの細胞によって、どのようにして作られているのかについてはほとんど解明されていなかったが、非常に透明度が高くて皮膚の内部構造なども観察しやすい両生類「ウーパールーパー」の皮膚を使ってコラーゲンの生成過程を研究した結果、主要なコラーゲンの供給源は、これまで常識だと考えられてきた「線維芽細胞」ではなく、「表皮細胞(ケラチノサイト)」であることがわかったと、2月25日に共同発表した。

  • ウーパールーパーの皮膚のコラーゲン繊維構造。きれいな編み目を持つ
    (出所:NIBB Webサイト)

さらに、このケラチノサイトを基盤とする皮膚コラーゲン産生メカニズムは、ウーパールーパーだけに特有のものではなく、さまざまな動物に共通して保存されたシステムであることも解明したとあわせて発表された。

同成果は、岡山大大学院 環境生命自然科学研究科・器官再構築研究室(佐藤伸研究室)の大蘆彩夏大学院生、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域の坂本浩隆博士、大阪大学大学院 生命機能研究科の黒田純平博士、名大 One Medicine 生命-創薬共創プラットフォームの近藤洋平特任講師、NIBBの亀井保博博士、同・野中茂紀博士、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域の佐藤伸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ほ乳類の皮膚は不透明であることから、実際に皮膚の中で細胞がどのようにコラーゲン繊維を編み出しているのかについては、未解明の状況だ。しかし線維芽細胞にコラーゲンの産生能力があるという事実だけを基に、「皮膚コラーゲン=皮膚線維芽細胞」という研究上の常識が構築され、膨大な研究資金が投じられてきたという。

そこで研究チームは、皮膚コラーゲンの産生メカニズムを解明するため、皮膚の高い透明度を持つウーパールーパーを用いた研究を開始し、2024年にコラーゲン産生を担う線維芽細胞の同定に成功。ただし、その細胞は一般的な線維芽細胞のイメージとは異なり、非常にユニークな細胞形態を持っており、同細胞を「織姫細胞」と命名することにしたという。

成熟した皮膚の中で、どのようなプロセスを経て真皮コラーゲンが形成され、発達(発生)するのかはまだわかっていなかった。今回の研究では、皮膚コラーゲンがどのように発達・発生しているのかを焦点として研究を進めることにした。

ウーパールーパーの皮膚コラーゲンは非常にきれいな編み目構造を持ち、この編み目構造は皮膚の質感やハリなどに重要であると推測されている。今回は、この真皮コラーゲンがどのようなプロセスを経て作られるかが着目された。

ウーパールーパーの皮膚コラーゲン層の形成は、1層のコラーゲン層に始まり、最終的に3層構造となることがわかった。幼若な時期のウーパールーパーの1層のコラーゲンでも、非常にきれいな編み目構造が確認された。しかし、その中には、網目状の織姫細胞が存在しないことが判明。同細胞が存在しないにもかかわらず、網目状のコラーゲンが存在していることから、他の細胞がコラーゲンの供給源となっている可能性が追求されることとなった。

  • コラーゲンと織姫細胞の存在。成長したウーパールーパーの皮膚(10cm dermis)には織姫細胞が存在するが、幼若なウーパールーパーの皮膚(5cm dermis)には存在しなかった
    (出所:NIBB Webサイト)

I型コラーゲン(真皮コラーゲンの主要成分)の遺伝子を発現している細胞が、コラーゲンを提供している細胞であると考え、I型コラーゲンの発現細胞を探索したところ、表皮ケラチノサイトにおいて強いI型コラーゲンの発現が確認されたという。表皮ケラチノサイトは、これまではまったくコラーゲンの産生には関与しないと考えられていたことから、さらなる検証が行われた。そして、表皮細胞にコラーゲン産出プロセスで生じる産物の発現があること、コラーゲン層の新しい積層が表皮側にあることが突き止められた。

  • 新生コラーゲン(緑)は表皮(ケラチノサイト)側に蓄積することが判明した
    (出所:NIBB Webサイト)

次に、織姫細胞をはじめとする線維芽細胞が、真皮コラーゲン産生において何を行っているのかが調べられた。織姫細胞が生み出す繊維の解析と、深層学習を用いた画像解析を組み合わせたアプローチの結果、織姫細胞のような繊維芽細胞は、ケラチノサイトによって編み出された線維を補強、修復する役割を担うことが明らかにされた。

さらに、今回発見されたコラーゲン産生メカニズムは、ゼブラフィッシュやニワトリ、マウスにも保存されている可能性がきわめて高いことが示されたとした。

現在、ほぼすべてのコラーゲンに関わる製品や衣料品開発は線維芽細胞がターゲットとされている。しかし、今回の研究によりケラチノサイトこそが真のコラーゲンの産生母体であることが明らかになり、これまでの研究開発はターゲットを誤っていた可能性が示唆された。今回の成果はきわめて重要であり、今後の製品開発の方向性を大きく変える可能性があるとしている。