
当法人は、現在の山梨県南アルプス市で1953年に精神科の峡西病院からスタート。その後、時代や地域のニーズ、社会課題に合わせて事業を拡大し、現在は障害福祉施設、介護老人保健施設、訪問看護事業所、精神科リハビリテーションセンターなどの施設を擁しています。
私は杏林大学医学部を卒業後、同大学大学院医学研究科に進学し、軽度認知障害に関して研究。大学院修了後、峡西病院に就職しながら杏林大学医学部付属病院で外来診療を続け、非常勤講師として学生の教育にも携わっています。
医療一筋の精神科医でしたが、2018年に峡西病院の院長、22年に南山会の理事長に就任したことが私の転機です。院長は患者さんだけでなく、職員の話も聞く立場ですが、当時の法人の経営などに疑問や不満を持つ職員もいて、それを院長としてどう受け止め、経営改善していくかということから理事長就任の決断にもつながりました。
ただ、私は経営に関しては全くの素人。組織の構成や給与の仕組み、財務諸表の見方など知らないことだらけ。今まで培ってきた精神科医の知識やプライドは役に立たず、まったく違う業界に転職したような状況に追い込まれました。そこですぐに自分が素人なのだと認め、リスキリングすることを決意。経営に関する様々なセミナーを受けたり、病院経営者の育成塾を一年間受講したり、若い起業家たちの集まりに参加したりして、経営のヒントを学んだのです。
若い人たちの中に入って、「若い時からこういうことを学んでおけばよかった」と思いましたが、徐々に新しい知識や情報も得られました。逆に、昔ながらの経営の仕方を知らなかったからこそ、今の「人的資本経営」「パーパス経営」「DX経営」なども新鮮で、素直に受け入れられたのだと思います。
稲盛和夫氏のフィロソフィ経営にならい、私の経営哲学や考えを職員に毎月「南山会フィロソフィ」として発信していますが、始めて数カ月後には職員から返事が来るように。昨年、その延長でもあるパーパス「医療と福祉と介護の力で、誰もが『幸せだ』と思える世界を創造する」も制定しました。この「誰もが」には職員も含まれます。今年の年頭あいさつでは「日本一医療従事者の価値を高められる医療法人を目指す」と宣言もしました。理事長就任という転機で、経営者としてはもちろん、人としても学ぶことができたと思っています。