日本IBMは2月19日、オンライン/オフラインで一昨年に米IBMが買収したApptioが定義する「TBM(Technology Business Management)」に関する説明会を行った。

TBMとは

まず、日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 Apptio事業部長の塩塚英己氏は「Apptioとして、SaaS(Software as a Service)ソリューションを提供し、TBMというのはApptioのバックボーンになっている方法論。ApptioとTBMの両輪で事業展開している点が非常にユニークな点だ」と説明した。

  • 日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 Apptio事業部長の塩塚英己氏

    日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 Apptio事業部長の塩塚英己氏

Apptioは2007年に創業し、日本法人を2020年に設立。グローバル全体で1800社の顧客を抱え、6500億ドル(日本円換算で約100兆円)のITコストがApptio上で管理されている。そもそも、TBMとはテクノロジー投資全般を管理する方法論となり、ITファイナンス管理のプロセスを高度化してテクノロジー投資によるビジネス価値の最大化を実現するためのもの。

  • Apptioの概要

    Apptioの概要

IBMは、昨年8月に同社を46億ドル(当時の日本円換算で約7000億円)で買収。急拡大しているITファイナンス/FinOps領域の市場でApptioが持つシェアとソリューションを取り込み、またオートメーション分野におけるIBMの既存ソフトウェアとのシナジーの創出、そしてApptioがエンタープライズSaaS領域で一定の成功を収めていることを踏まえ、買収に踏み切った。

Apptioのソリューション群

Apptioは、IBM Automationポートフォリオの中で最上流となる投資最適化や投資管理を担うソリューションを揃えており、これらの市場は2028年に3270億ドル(日本円で約50兆円)規模への成長が見込まれている。そうした中で、同社はITファイナンス管理の「IBM Apptio」、クラウドファイナンス管理の「同Cloudability」、戦略ポートフォリオ管理の「IBM Targetprocess」を提供している。

  • IBM Automationポートフォリオ

    IBM Automationポートフォリオ

IBM ApptioはIT予実比較やアプリTCO(総保有コスト)可視化、ITコストの最適化、利用部門への課金、ITにまつわる意思決定高度化など、主にCIO(最高情報責任者)など情報システム部門の責任者がターゲット。

IBM Cloudabilityは、パブリッククラウドのコスト可視化・支出最適化やクラウド関連費用の可視化、クラウドへの移行計画をはじめ、インフラ担当リーダーやクラウドエンジニア、FinOps部門を対象としている。

IBM Targetprocessは、ビジネス戦略に合わせたリソース・ポートフォリオ管理や開発リソースの計画・調整、プロジェクト・プロダクト開発の進捗トラッキングなど、ポートフォリオマネジメントオフィス、デジタル推進リーダーなどがターゲットだ。

  • Apptioの製品ポートフォリオ

    Apptioの製品ポートフォリオ

塩塚氏は「Targetprocessは日本でエンタープライズアジャイルが広まっていないことから、顕在化していないが、米国で急速に立ち上がっており、日本でも立ち上がってくるだろう。グローバルではApptioとCloudabilityの事業規模は同規模となっており、日本は大半がApptioとなっている」との見立てだ。

みずほや横河電機で採用

IBM ApptioはITテクノロジーの投資管理関するさまざまなデータマート、データ分析、レポーティングの機能を持ち、外部のデータソース、例えば財務会計のERPシステムやServiceNowなど資産管理のシステムからデータを吸い上げて、TBMの方法論に準拠する形で分類体系にもとづいてコストを割り当てるエンジンを備えている。

同氏はApptioについて「アクションや効果に結びつくためのレポーティングをテンプレートとして出力する。特徴的な点として、実際に効果に結びつくアクションを行うためには、どのような切り口のレポートが必要なのか、そのレポートを出力するためにはどのようなデータが必要なのかということはベストプラクティスで決まってくる。そのため、単にBIツールなどで情報を見るだけではなく、アクションや効果に直接的に紐づくベストプラクティスがApptioには組み込まれている」と話す。

このような特徴を備えていることから、予実の差異を1%以下に低減したり、ITコストを総額10%削減したり、新規投資比率を倍に向上させたりする効果を実現しているようだ。実際、IBMでは買収前からApptioのユーザーでもあり、IT投資の最適化を行っている。

  • IBM Apptioによる実現効果例

    IBM Apptioによる実現効果例

IBMでは、レガシーシステムによるコスト圧迫やアプリケーションごとのコスト、急拡大するパブリッククラウドのコストをTBMの方法論で最適化に取り組んだという。

CIOやCFO、ビジネス部門を巻き込む形でTBMプログラムを進め、テクノロジー投資の可視化・最適化。結果として、クラウドコストを従来比20~30%削減やアプリケーションのTCOを25%削減、既存運用費から戦略投資に1億1500万ドル(日本円換算で約173億円)にシフトした。

  • IBMにおけるApptioの導入事例

    IBMにおけるApptioの導入事例

日本国内におけるApptioの事例としては、みずほ銀行ではIBM Apptioを導入。戦略にもとづくIT投資の優先順付を行い、IT戦略と事業戦略を一体化し、必要なIT投資・経費に関するデータの可視化を適切な粒度で実現。可視化された情報はステークホルダー間の共通言語として共有し、円滑なコミュニケーションと全社レベルでのIT投資・コストに対して適切な意思決定が進めることができるようになったという。

また、横河電機はIBM Cloudabilityを導入し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しつつ、クラウド利用を最適化して投資から効果的にビジネス価値を生み出すためFinOpsを導入し、実践のためCloudabilityを採用。結果的にクラウドコスト最適化の一環として約38%の支出削減を実現したとのことだ。

分断・サイロ化する企業のテクノロジー投資

続いて、日本IBM テクノロジー事業本部 Apptio事業部 TBMエバンジェリストの浅川真弘氏がTBMを掘り下げて解説した。同氏は「TBMは、DXが進む時代においてすべての企業や組織がテクノロジー投資、コスト、リソースを適切に管理し、ビジネス価値の最大化を行うための方法論」と、改めて強調した。

  • 日本IBM テクノロジー事業本部 Apptio事業部 TBMエバンジェリストの浅川真弘氏

    日本IBM テクノロジー事業本部 Apptio事業部 TBMエバンジェリストの浅川真弘氏

TBMの概念と実践・推進するため非営利団体として「TBM Council」の存在があり、業界のベストプラクティスや標準や教育プログラムを提供し、メンバー間での知識共有とコラボレーションを促進。現在、グローバルのメンバーは100カ国に1万8000人、組織数は4000に達していると浅川氏は説く。

  • 「TBM Council」の概要

    「TBM Council」の概要

同氏によるとテクノロジー戦略はビジネス戦略であり、技術はIT部門やCIOだけではなく、組織全体のステークホルダー、リーダーを含めて最高レベルの戦略に整合させる必要があるとの見解を示す。とはいえ、現状のテクノロジー投資は各部門で別々のSaaSを導入しているため分散しており、分断・サイロ化しているという側面がある。

ガートナーの調査では68%のCEOはAI、デジタル化、技術革新、デジタル変革、自動化を戦略的優先事項のトップ5に挙げ、50%のCIOは2025年の最優先事項としてITの価値を示すことを挙げている。また、43%のCIOは2025年の最優先事項としてコスト、価値、リスクのバランスを取るためのITファイナンス管理を挙げ、引き続きCIOはITファイナンスとITの価値を示すことに重点を置いている。

企業では「どのようなテクノロジー投資から最大のリターンが得られるのか」「全社共通基盤のITコストが増え続け、新規投資の原資を確保できない」「自部門で素早くテクノロジーを導入したい」など、疑問と分断が至る所で散見されているという。

TBMは“フィナンシャルプランナー”のような存在

浅川氏は「TBMはIT部門、財務部門、ビジネス部門が連携して意思決定を行うための共通言語を提供し、ビジネスの価値最大化のためのインサイトを提供する」と胸を張る。

TBMのフレームワークでは、人件費なども含まれた「テクノロジーコストの透明性・可視化」を出発点に「IT予算と統制」「コスト最適化」「利用部門との関係性改善」などのアクションを起こし、財務的パフォーマンス、運用効率性、イノベーション、リスク&コンプライアンスなどの成果を追求していく。

  • TBMのフレームワーク

    TBMのフレームワーク

同氏は「TBMを一言でいえば“フィナンシャルプランナー”のような存在。家計簿で日々の出費の可視化・分類し、年間収支やライフイベントの出費の予測、固定的出費の見直しなどするように、TBMは企業や組織がテクノジー投資価値の最大化を可能にする」と力を込める。そのため、Apptioは企業における費用体系を紐解くために「TBM Taxonomy」と呼ぶ分類方法を提示している。

浅川氏は「社内外の労働力やクラウドの支出、ハードウェア、電力などを『コストプール』、計算資源、ネットワーク、アプリケーション、データセンターをはじめとしたものを『テクノロジーリソースプール』、AIやインフラ、共有サービス・コーポレートサービスなどを『テクノロジーソリューション』、ビジネスケイパビリティ、バリューチェーンなどを『ビジネスと利用ユーザー』の4層でそれぞれ分類する」と説明。

  • 「TBM Taxonomy」

    「TBM Taxonomy」

これにより、ビジネス部門やIT部門、財務部門が分かる形でテクノロジーコストを可視化するとともに、いずれかの層で分類されているものを選択すれば、異なる層で紐づけられているものを把握できるという。

同氏は「テクノロジーは常に時代の中で変化していく。昨今で言えば生成AIやサステナビリティなどの文脈でテクノロジーの環境は変化しているが、TBMであれば紐づけて理解できる。TBM Councilでは研究成果をWeb上で公開しており、日本語化できればと考えている。日本でもTBMの活動を盛り上げ、さまざまな企業と議論していきたい」と述べていた。