ZVC JAPANは先般、Zoomのオンラインイベントである「働き方改革サミット」を日本においても開催した。今回実施された「働き方改革サミット」では、専門家や未来学者を招き、次世代AIを活用したビジネスの成長と成功に向けた実践戦略を紹介した。
同イベントでは、セキュリティやプライバシーといったAIに関する課題へのベストプラクティスや、AI導入の成功事例、導入のための指針や活用法など、次世代の働き方に向けた具体的なステップとヒントが共有された。
さらに、HR(Human Resources)のコンサルティングとAIの専門家が、従業員のスキルアップを図りつつ、AIを安全に組織に統合する方法を紹介するなど、イノベーションと人間関係のバランスを保ちながらチームを成功に導く方法について解説された。
本稿では、同イベントで共有されたポイントを紹介する。
「生成AI」から「エージェントAI」
最初に登壇した、作家で未来学者でもあるマイケル・ウォルシュ氏は冒頭、AIが企業、業界、そして仕事に変革をもたらしている仕組みについて、自身の考えを披露した。
ウォルシュ氏の見解では、イノベーションの焦点は現在、「生成AI」から「エージェントAI」に移り変わっているという。さらに、この移り変わりは続き、2035年に向けて「プロダクトからプラットフォーム」「取引から体験」「アプリからエージェント」という3つの主要な転換が起こると、同氏は説明した。
さらにウォルシュ氏曰く、リーダーが新たな社会で成功するには、人間の複雑さを深く理解しつつ、計算的に思考しながら、AIトランスフォーメーションを舵取りしなくてはならないという。
この考えに基づき、同氏は、企業に次のことを行うよう提案した。
自動化するときに、レベルアップせよ。
人員を減らすのではなく、新しいAIツールを活用できるよう人材の再トレーニングとスキルアップに注力するべき。
ただ働くのではなく、仕事をデザインせよ。
ただやみくもに仕事に取り組むのではなく、メタ認知に焦点を当て、どうすれば仕事のプロセスが改善するかを考える。
競争優位性を見つけよ。
独自の視点と経験から得た誰にも負けない強みを特定し、AIと組み合わせれば、向かうところ敵なしとなれる。
AIを実装するための実践的な手順
続いてのセッションでは、Zoom COO(最高執行責任者)のアパルナ・バワ氏がモデレーターとして、AIを実装するための実践的な手順についてディスカッションが行われた。
Boston Consulting Groupのグローバル エグゼクティブ ディレクター兼プロダクト ポートフォリオ リードであるニコル・ジャクソン‐デジョワ氏と、Cienaの最高デジタル情報責任者であるクレイグ・ウィリアムズ氏ともに議論が交わされた。
Boston Consulting GroupとCienaの両社は、生成AIの変革の可能性を当初から認識しており、自社の業務にAIを連携させるための戦略的な手順を策定している。両社はこの画期的なテクノロジーの登場を否定的に捉えるのではなく、流れに先んじて行動するべく先進的なアプローチを採用したという。
ジャクソン‐デジョワ氏とウィリアムズ氏は、生成AIイニシアチブを両社がどのように準備・開発し、従業員や顧客に提供したのかについて、その知見を共有した。以下、両者が語ったポイントをまとめてみた。
プロセスの整備から始めよ。
セキュリティ、データ保護、責任ある AI、法務の各チームから成る AI 担当業務グループを設定する。何よりも先に、ポリシーとガイドラインを整備する必要がある。
適切な人材配置が重要。
組織にとって、市場のトレンドと生成AIの進化をモニタリングする専任チームを確立することは大きなメリットがある。
このチームの役割は、イネーブルメントと保護措置のバランスを取り、イノベーションを推進しつつ価値を最大化するような運用モデルを設計すること。
また、ワークフローを変革するユースケースを特定して開発し、これらのツールを最大限に活用することも可能となっている。
「ツール決め」の前の「試用」に注力せよ。
最初は、チームがどこで行き詰まっているのかを知り、さまざまなツールをテストするためのパイロット プログラムを作成する段階として学習と実験の繰り返しになる。
承認済みのAIツールをまとめた「ツール小屋」を作り、従業員が試用できるようにするべき。
誰もが気持ちよく使えるようサポートせよ。
トレーニングを提供し、テクノロジーに精通した意欲的な人材を鼓舞して協力を呼びかけ、リーダーが考える従業員の要望と、従業員が実際に必要としていることのバランスを取る。
ツールを定着させよ。
すぐに使える既存のSaaSツールから始めることを推奨する。
従業員に承認済みツールを試してもらい、どのように役立つか(時間の節約や業務効率の向上など)を追跡。従業員の感想を聞き、改善点を確認する。
「人間らしさ」を維持しながらAIの導入を成功させるには
最後のセッションでは、Zoom グローバル コンタクト センター ソリューション エンジニアリング責任者のエイミー・ロベルジュ氏が、人工知能と自動化の専門家であるパスカル・ボーネット氏とPwCのCEO アドバイザー兼ワークフォース トランスフォーメーション プラクティス リーダーのアンソニー・アバティエロ氏と共にディスカッションを行った。
セッションでは、組織運営の要である「人間らしさ」を維持しながら、AIの導入を成功させる方法について語られた。
両氏は、AIの導入をうまく実施するには、共感や創造性といった人間らしさを保ちつつルーチン作業や反復作業を自動化する、適切なバランスが大事だと説明した。
組織が生成AIを最大限活用しながら、適切なバランスを取る実践的な手順としては「リーダーシップからの賛同を確立する」「信頼の文化を育む」「継続的な適応型トレーニング プログラムを作成する」「イノベーションと人とのつながりのバランスを取る」といった内容が適切だという。
イベントの締めくくりとして、zoomは「AIの導入において、テクノロジーと引き換えに人間らしさを犠牲にする必要はない。従業員や顧客向けのツールを開発しながら、組織のプライバシーとセキュリティを維持することは可能だ」と主張した。