アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンは1月31日、日本のクラウドインフラストラクチャへの投資計画の進捗を説明するとともに、日本で初となる水源涵養プロジェクトの実施を発表した。

2024年11月に代表執行役員社長に着任した白幡晶彦氏が初めてメディアの前に登場し、事業方針を語った。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長 白幡晶彦氏

白幡氏は同社が「日本のために 社会のために」貢献すると述べた。現職に就任以来、さまざまな顧客、スタートアップ、開発コミュニティと話す中でさまざまな意見をもらったとして、これからも「常に初心を忘れずに、イノベーションや日本のDXの加速のために取り組んでいく」との決意を表明した。

国内の新データセンターに低炭素型コンクリート採用

同社は同日、2つの発表を行った。その一つが「日本に新設するデータセンターにおける低炭素型コンクリートの採用」だ。

同社は昨年、2027年までに日本への2兆2,600億円の投資を実施する計画を発表した。上記の発表はこの計画の一環となる。白幡氏は「われわれは投資計画に沿ってクラウドインフラの拡充を進めている。そうした中、データセンターの拡充にとどまらず、再生エネルギーの利用や地域社会への貢献など、活動は全方位で多岐にわたる」と述べた。

国内に新設されるデータセンターは2026年に稼働開始を予定としており、「セキュリティの観点から具体的な場所は言えない」(白幡氏)とのこと。

  • AWSジャパンが建設中のデータセンターのイメージ

新データセンターには、従来型と比較してエンボディドカーボンが64%少ない低炭素型コンクリートが採用される。建築物分野におけるエンボディドカーボンとは、建設資材の製造、輸送、設置、保守、廃棄で生じる二酸化炭素排出量を意味する。

「エンボディドカーボンの削減は難しい取り組みだが、当社はサプライチェーンと連携して、環境に配慮したデータセンターの建設を進め、日本の脱炭素の取り組みに貢献する」(白幡氏)

また、新しいデータセンターでは、竹中工務店の協力の下、基礎にECMコンクリートというコンクリートミックスを使用している。ECMコンクリートでは、コンクリートを構成する成分であり炭素含有量が多いセメントの60%~70%を、鉄鋼を製造する際の副産物である高炉スラグに置き換えることで、コンクリート由来の温室効果ガス発生を低減している。

白幡氏は、「データセンターの環境負荷を低減するため、できることから始めるためにコンクリートに目を付けた。日本の建設会社と連携し、ローカルにコミットして日本の技術を活用して環境負荷の低減に取り組む。コストは課題ではあるが、日本にコミットしたデータセンターを構築する」と説明した。

AWS東京リージョンのデータセンター群では、地震発生時における構造的な耐震性強化のためにデンターセンターの基礎を大きくしている。そのため、日本におけるコンクリートの脱炭素化の取り組みにおいて大きなインパクトが期待できるという。

山梨県丹波山村と日本初の水源涵養プロジェクト

もう一つの発表は「Amazonと山梨県丹波山村が締結した森林保全・水源涵養に関する協定」だ。同協定の下、日本で初となる水源涵養プロジェクトを今後10年にわたり実施する。同プロジェクトにより、毎年1億3,000万リットル以上の水が地域社会に還元されることが見込まれるという。森林規模および投資額は非公開とされている。

  • 協定締結式に臨んだ、山梨県丹波山村 木下喜人村長(右)、AWS データセンタープランニング&デリバリー担当バイスプレジデント ケリー・パーソン氏(左)

丹波山村は、AWSアジアパシフィック(東京)リージョンのデータセンターに水を供給する水道事業者の水源地の一部となる。同プロジェクトは、村の森林の状態を改善し、水資源を確保・強化することを目的としており、AWSの事業で使用する量以上の水を地域社会に還元することで、2030年までにウォーターポジティブを達成するというAWSがグローバルで掲げる目標の実現に寄与する。

2023年末時点で、AWSは2030年までにウォーターポジティブになるという目標の41%を達成している。

米国では、生成AIに対するニーズの急増を踏まえ、AWSやMicrosoftが原子力発電に投資している。その点について、白幡氏は「米国では原子力がオプションの一つだが、日本はソーラーや風力でまかなう」と語った。

白幡氏は、環境への投資の例として、同社が日本で25件の再生可能エネルギープロジェクトに参加していることを紹介した。すべてのプロジェクトが稼働すると、日本の一般家庭7.6万世帯の年間消費電力量に相当する電力をつくりだせるという。

生成AIのニーズに応えるためクラウドへの投資を加速

同社が2006年にビジネスを開始して以来、日本では数十万の企業にクラウドサービスを提供しており、昨年以降、金融系の勘定系やガバメントクラウドなど、基幹システムをクラウドに移行する機運が高まっているという。

そうした中、同社がクラウドへの投資を加速している理由について、白幡氏は次のように説明した。

「生成AIに対するニーズは高まっているが、AIや生成AIの利活用はこれからが本番。現在、PoCのフェーズからビジネス価値を生み出すフェーズに移行している」

また、同社は生成AIを活用する企業を支援するため、生成AI実用化推進プログラムを実施しているが、100を超える企業が参加しているという。白幡氏は「各社ユニークな形で生成AIを活用しており、多くの学びを得ている」と話した。

白幡氏は「年次イベントであるAWS re:Invent 2024で多くの新しいサービスを発表したが、そのすべては顧客起点から生まれたもの。これからも顧客に真摯に向き合い、日本を前進させたい」と語っていた。