阪急阪神ホールディングス(HD)は会長の角和夫氏(75)が12月20日付で退任したと発表。「健康上の理由」としている。グループの最高経営責任者(CEO)なども外れるが、阪急電鉄の会長職は継続する。
角氏と言えば、03年に阪急電鉄の社長に就任した後、バブル期に抱えた損失の処理や経営の刷新を進めると共に、06年に村上ファンドに株を大量保有された阪神電気鉄道との経営統合交渉で手腕を発揮し、阪急阪神HDの初代社長に就いた「戦略家」(私鉄幹部)だ。
06年の阪急HD社長だった当時、『財界』誌の取材では「私どもは公共性の高い鉄道事業を中心に、『安全や安心』、長期的視点に立った『投資計画』、『まちづくり』など、どの事業をとっても、長期的な視点抜きで経営できない会社だ」と語った上で、「ファンドが短期で利益を得ようとすると、不動産の売却ということになる。しかし、会社を解体するようなことは、同じ鉄道会社として許せない」と阪神電鉄のホワイトナイト(友好的な第三の買収者)に名乗りを挙げた理由を述べている。
経営統合によって時価総額も1兆円規模にまで拡大させ、私鉄大手の一角を占めるまでになった。14年からは会長となり、経営方針や戦略の決定で中心的な役割を担った。また、関西経済の振興にも意欲的で関西経済連合会の副会長も長らく務めた。
だが、社長在任期間が20年を超え、「社内で角会長にモノを言える人はいない」(グループ会社関係者)との声も。また、今回の退任の引き金にもなったと指摘されるのが23年に宝塚歌劇団の劇団員が死亡した問題だ。
その劇団員の遺族が上級生からのいじめやパワーハラスメントを主張し、劇団を運営する阪急電鉄や阪急阪神HDも厳しい批判を浴びた。角氏はペンネームで曲を提供するなど歌劇団との関わりがあり、宝塚音楽学校の理事長辞任にも追い込まれた。
24年6月のHDの株主総会では、「退任すべきだ」という株主の声に対して「75歳なので近々辞退するが、来年(25年)まではこの体制でいかせていただく」と回答していた。
歌劇団の問題を解決させ、グループを再び成長軌道に乗せられるかは、グループCEOになった後任の嶋田泰夫氏の腕にかかっている。