1月29日にセールスフォース・ジャパンは都内で記者説明会を開催した。その中で語られた、自律型AIエージェント「Agentforce」を本番運用している富士通の事例を紹介する。

Agentforceの本番運用を開始した富士通の事例

まず、富士通 Global Business Applications事業本部 Salesforce事業部シニアディレクターの山﨑洋輔氏はセールスフォースとの関係性について触れた。

  • 富士通 Global Business Applications事業本部 Salesforce事業部シニアディレクターの山﨑洋輔氏

    富士通 Global Business Applications事業本部 Salesforce事業部シニアディレクターの山﨑洋輔氏

同社ではSaleceforceのコンサルティングパートナーであり、グローバルにおいて数万人の従業員がCRM、マーケティングオートメーションのアプリケーション基盤としてSalesforceを活用している。

山﨑氏は「生成AIへの取り組みは、2023年にカスタマーサービス向けAI「Einstein for Service」を自社のコンタクトセンター業務のデータを用いて先行検証に着手したのを皮切りに、2024年のDreamforceでリリースされたAgentforceの国内パイロットプログラムにに参画し、体制を整備して仕様の検証・確認から具体的な実装、データのチューニングまでの検証を実施してきた」と振り返る。

パイロット検証の結果、チャットボットと比べて誤回答ゼロかつ平均応答時間を71.5%、有人対応などの比較では平均応答時間が67.0%削減できることを確認し、今年1月から本番運用に踏み切ることにした。

  • 富士通におけるセールスフォースSaleforceのAIソリューションの取り組み

    富士通におけるセールスフォースのAIソリューションの取り組み

本番運用では、同社からセールスフォースライセンスを購入した顧客向けの一次サポート窓口「富士通Salesforceサポートデスク」に適用することにした。同サポートデスクでは問い合わせ件数が年間1700件と年々増加傾向にあったことに加え、オペレーターは新製品・新技術の増加で情報探索・選択の難易度が上がり、マネージャーは情報量と複雑性からフォローアップが難しい状況となっていた。

このような状況に対し、同氏は「どうしても対応工数が全体的に増加していき、対応品質を維持・向上を継続的に行う必要があった。こうした課題についてAIを活用し、解決できないかと考えた」という。

今後の活用に向けて、定常的な問合せやSalesforceのバージョンアップ時などの一次的で類似の問合せ、障害時をといった緊急時の類似問合せをはじめ、全体の問合せの15%程度をすべてAIエージェントに置き換えていく。

山﨑氏は「ナレッジベースで回答できるものはすべてエージェントに任せる。また、オペレーターもエージェントを活用するため、膨大なナレッジやデータを自然言語で簡単に検索できるほか、問い合わせのやり取りもサマリー化されることからマネージャーによる全体の状況把握の工数を10%削減する取り組みを進めている。さらには、PDFなどもベクトルデータベースに非構造化データとして格納することで、Agentforceが活用できるような状態にしていく」と力を込める。

  • 富士通のAgentforceのユースケース

    富士通のAgentforceのユースケース

今後の展望と実装で得た気づき

こうした活用を進め、同社ではナレッジベースで回答できる部分は24時間365日すべてAIエージェントに任せるが、オペレーターの人数は減らすわけではないという。その意図について、同氏は「オペレーターの方は高度な対応にシフトさせていく。特に類似性がないトラブルや障害対応は、人とのコミュニケーションが必要になることから人が対応し、人とAIが共存して顧客満足度を向上させていくアプローチをとる」とのことだ。

続けて、山﨑氏は「一般論になるが、AIに人の業務が奪われるかというと、われわれのこのビジネスではそうではないと考えている。これまで人がやってきた業務領域にAIが入り込むことは否定しないが、人がAIを活用または利用して業務を高度化させていく方向にシフトしていくことが目指すべき姿だ」と強調した。

将来的に、富士通では自社の実践で得た知見と、これまでのSalesforceの導入ナレッジを活かし、Agentforceの導入支援として、アセスメントから実装、データチューニング、運用後の伴走まで含めて、エンドツーエンドで支援していく方針だ。

  • 富士通ではAgentforceの導入支援を行う

    富士通ではAgentforceの導入支援を行う

そして、2カ月もかからずして実装を完了させた気づきとして「AIに任せる(業務選定)」「AIを動かす(実装・評価)」「AIを磨く(運用での改善)」の3つのポイントを挙げている。

業務選定ではAIが適用できる業務を見極めるとともに、ROI(投資収益率)を把握する必要があるほか、プロンプトやLLMの知識を深めて実装していく必要があるという。

実装・評価については、類似のトピックの作成は避けて、適切なアクションを実行させるようにプロンプトビルダーなど従来の機能を組み合わせて活用し、業務、AI、Salesforceの知見いずれも欠けることなく実装していくことが望ましいとのこと。

運用での改善に関しては、AIからの回答はデータの品質に依存することもあるため、常にデータを新しく、改善していくことが必要であり、Data Cloudやベクトルデータベースなどのデータソースを活用していくことを推奨している。