KDDIは1月24日、みなとみらい耐震バース(神奈川県 横浜市)において「2025年KDDI災害対策訓練」を実施した。同社は新たな技術の導入や設備の増強を通じて災害対応の強化につなげるとしている。本稿では、発災時や被災後の活用が期待できる同社のソリューションについて紹介する。
陸上自衛隊や海上保安庁と連携して行われた実動訓練の模様はこちら(KDDI、自衛隊らと連携した災害対策訓練を公開 - 能登半島地震の教訓を応用)。
最新のテクノロジーを取り入れた災害復旧の試み
KDDIは最新のテクノロジーを導入し、災害対策を強化している。中でも2023年からのアップデートとして注目すべきは、AIを搭載したドローンと、スペースXの衛星ブロードバンド「Starlink(スターリンク)」を活用した通信だろう。
Skydio X10
実動訓練で使われたドローンはSkydio X10。2024年にKDDIと石川県警が連携して実施した、警察活動の高度化に向けた地域防災コンビニの実証実験でも活躍したドローンだ。
NVIDIA Jetson Orin GPUを搭載し、機体上下の計6個のナビゲーションレンズで360度の視野を確保したことで、AIによる自律飛行や障害物回避が可能。可視光カメラの他に、ズームカメラやサーマルカメラを備える。ズームカメラは約250メートル離れた車のナンバーを確認できる性能を持つ。
パイロット手元のコントローラーではドローンが撮影した映像を確認しながら操縦できる。また、撮影する映像をサーモカメラなどに切り替えて、遭難者や要救助者の捜索にも応用できる。
Starlinkによる基地局の復旧
KDDIは2023年度から、従来の車載・可搬型基地局による通信エリアの復旧に加えて、Starlinkによる通信を基地局のバックホールとして活用する復旧手段を実用化している。発災時に基地局のアンテナや無線機自体が影響を受けていない場合には、Starlinkアンテナを設置することで通信を復旧できる。
同社によると、アンテナ設備が被災し故障することによる停波は、全体の1割にも満たないそうだ。多くは停電などに起因し、光ファイバー回線からStarlinkへの切り替えが有効となる。Starlinkアンテナの重さは約7キログラムと、被災地への持ち込みが容易。令和6年能登半島地震においても、Starlinkをバックホールとして復旧手段に活用し、被災地の早期エリア復旧に寄与した。
今後はアンテナなど関連機材の台数を増やすとともに、現場復旧のスキルを持つオペレーターの育成に注力する。
Staalinkを活用したDirect to Cell通信デモ
KDDIは2024年10月、Starlink衛星とauスマートフォンを直接接続する「Direct to Cell」の実証実験に成功。KDDI災害対策訓練では、通信障害が発生した別所岳エリア(石川県七尾市)にいる県職員が持つ端末とStarlink衛星を接続し、横浜市の端末とショートメッセージでやりとりするデモンストレーションが公開された。
これまでのStarlinkによるスマートフォンの通信では、au基地局を利用したWi-Fiか、上記のような基地局のバックホールとしての活用が可能だった。しかし、地上約340キロメートル上空を飛ぶ直接通信向けStarlink衛星を介することで、Direct to Cellが利用可能となる。
Direct to Cellに対応する端末では「サテライトモード」方式が導入される。従来の圏外のピクトグラムから、Starlink接続時には衛星接続時のピクトグラムに自動で切り替わる。なお、ユーザーが手動でStarlink通信に切り替えることはできず、通信障害などにより従来のモバイル通信が切断された場合にのみ、自動でサテライトモードが有効となる。
現在のところ、Starlink衛星とは常時接続できない。通信に適した距離と角度で衛星が上空を飛んでいる間のみ、通信を利用できる。デモンストレーション当日は30分間に12機の衛星が石川県上空を通過した。すなわち、2~3分おきに通信を利用できるといった間隔だ。
通信の復旧を船上から支援
KDDIは2022年12月、弓削商船高等専門学校と「災害発生時における船舶型基地局の設置に関する連携協定書」を締結した。これに基づき、同校の練習船「弓削丸(ゆげまる)」を用いた船舶基地局の運用を開始している。
基地局が被災した場合、車載・可搬型車載型基地局などを用いてエリアの復旧が図られる。しかし、土砂崩れによる道路の寸断など、車載型基地局では復旧に時間を要する場合がある。東日本大震災の際には地震や津波で道路が崩壊し、陸路からのエリア復旧が困難となった。KDDIはこの教訓から船舶型基地局を活用したエリア復旧を開発した。
これにより、大規模災害などの影響で陸上の基地局が十分に機能していない周辺地域においても、船舶型基地局によりau・UQ mobile・povoのユーザーは通信を利用できるようになる。これにより、災害時の安否確認や復興活動などにおける通信手段の確保に貢献する。
能登半島地震ではNTTドコモと相互協力し、NTTグループが保有する「きずな号」の甲板に携帯電話基地局を搭載し、海上から能登半島沿岸部の通信復旧に寄与した。
災害対策をデジタルトランスフォーメーション
災害の激甚化に伴い、被災地が受けるダメージと共に通信設備の損傷も激しくなっている。こうした状況に対してKDDIは通信をつなぎ続けるため、災害対策のDX(デジタルトランスフォーメーション)に注力している。
Web技術を用いた早期復旧策
KDDIは災害からの早期復旧を目的として、Web技術を活用したソリューションを開発している。その一例として、Webアプリをスマートフォンのネイティブアプリのように利用できるPWA(Progressive Web Apps)による現地連絡手段の確保や、ハイパーレイヤリングにより地図上に被災状況をプロットするSVGMapなどが活用されている。
基地局附帯電源「Open Power Station」
Open Power Stationは従来の電源箱を高機能化した、基地局の附帯電源設備。従来の電源箱は基地局に電力を供給する機能のみ備えるが、Open Power Stationは電源監視や電力使用状況のモニタリングなども可能。
被災時には基地局の電源確保が急務となる。過去の震災を振り返ると、通信サービスの主な原因は停電によるものだという。被災地での安否確認や情報収集には通信サービスの維持が重要であることから、Open Power Stationの実用化が期待される。
今回披露されたOpen Power Stationは、ドローンからのワイヤレス充電が可能。ドローンを用いて基地局へ給電できるようになることで、基地局の安定稼働と通信の維持が期待できる。なお、現状では1機のドローンで1台のOpen Power Stationをまかなうことはできず、複数台のドローンのリレー運用、もしくは複数回の往復が必要になるという。
そこで、KDDIは垂直設置型太陽光発電機器や小型風力発電機器といった自家発電設備を設置し、再生可能エネルギーも同時に有効活用可能なOpen Power Stationの実用化を目指す。
3D点群データの圧縮技術
3Dの点群データは建設現場や被災地での活用が期待されている。しかし、LiDARなどを用いた従来の点群データはデータ量が膨大になることから、迅速なデータ取得や伝送には課題が残されていた。
こうした課題の解決に向けKDDIは、3D点群データのエンコーダを独自開発。モバイル回線でのリアルタイム伝送を可能としたことで、スマートフォンを使って数秒以内にデータを送信できるようになった。見た目の品質を維持したままデータ量を約20分の1に圧縮できる。
これにより、被災地の状況をスマートフォンで撮影して、クラウド上の分析基盤や遠方の災害本部に伝送可能であり、被害状況の分析や復旧計画の立案などの迅速化に貢献する。