KDDIは1月24日、みなとみらい耐震バース(神奈川県 横浜市)において「2025年KDDI災害対策訓練」を実施した。同社は新たな技術の導入や設備の増強を通じて災害対応の強化につなげるとしており、今回の訓練はその対応の進捗について一部を公開するもの。開催は2023年以来2年ぶりとなる。本稿では、陸上自衛隊や国土交通省など関係機関と連携した実動訓練の模様を、動画を交えてお届けする。
公開された訓練は「Starlink(スターリンク)の輸送・設置連携訓練」「基地局復旧機材搬送・復旧訓練」「ドローンを活用した救助訓練」など。放置車両により道路がふさがれた場面や、陸路からのアクセスが断たれた場面などを想定した訓練が行われた。これらの訓練シナリオは、能登半島地震から1年が経過したことを受けて、当時の課題や現場での反省点に対応するために半島エリアでの震災発生を想定している。
道路が放置車両でふさがれ役場まで行けない状況を想定
まずは、発災後に道路が放置車両や倒木によって封鎖され、孤立した役場へのアクセスが不可能になった場面を想定した訓練が披露された。災害時においては、緊急車両の通行確保のために、災害対策基本法に基づき放置車両の移動が可能だ。なお、道路の啓開訓練に際しては国土交通省および陸上自衛隊と連携して進められた。
放置車両の通報を受けた関東地方整備局の職員は、車両排除装置を持って現場に向かう。車両の移動前には声かけと、写真の記録が行われる。車両ナンバーや傷の有無などを保存するという。
職員による声かけに対しドライバーが不在の場合や、自力での車両移動が困難な場合には、職員らによる車両の移動が行われる。車両排除装置はタイヤに装着することで、ジャッキアップの要領で車体を浮かせて移動できるようにする。
ちなみに、平成27年度の災害対策基本法の改正によりジャッキアップの機材を用いた道路管理者による車両移動が可能になったことから、全国で車両排除装置の配備が進められているそうだ。車両排除装置を装着した車両は職員らの手押し作業で速やかに移動された。
車両を移動させるシーン
道路が通行可能になった後、KDDI社員を乗せた陸上自衛隊の高機動車が登場。町役場を模したブースへStarlinkアンテナと発電機を運んだ。高機動車は通常の車両では通行が困難な悪路にも進入可能だ。なお、KDDIと陸上自衛隊は災害時の相互協力の協定を締結している。
町役場に到着した陸上自衛隊とKDDI社員は協力して機材を積み下ろし、電源の確保とStarlinkアンテナの設置に取り掛かった。これにより、無事に避難所となった町役場でStarlinkを活用したWi-Fi通信が確保された。
陸上自衛隊とKDDI社員によるStarlinkアンテナの設置
陸路からはアクセスできない状況を想定し港から通信復旧
続いて、陸路からのアクセスが断たれた状態で沿岸地域の光ファイバーが切断した場面を想定して、港から現地復旧班を派遣して通信を復旧する訓練が行われた。こちらは、KDDIと海上保安庁の連携による訓練。Wi-Fiではなく基地局のバックホールとしてStarlinkが活用される。
KDDIの現地復旧班を乗せた海上保安庁 第三管区海上保安本部 巡視艇「はまなみ」が被災地の港に接岸すると、現地復旧班と海上保安庁職員が協力して機材を下ろす。船上は揺れが激しいため、滑り止めマットやベルトで機材を固定する。さらに防水シートで覆うことで浸水を防ぐ。
基地局に到着した現地復旧班は、サービス停止している原因をまずは調査する。その後に電源やアンテナなど必要な機材を設置する。Starlinkアンテナ設置後は、上空の見通しが問題ないかを確認する。
最後に遠隔地のオペレーターに電波発射の依頼を行う。電波復旧の確認は現地復旧班の手元の端末で行われる。
KDDIの現地復旧班
KDDIの通信技術とドローンを用いて救助をサポート
次は、災害時の救助活動を行う横浜市消防局をKDDIがサポートする訓練が披露された。発災から6時間後、社内に取り残された要救助者の様子を確認するため、近隣のローソン店舗からドローンが離陸した、という場面を想定したシナリオだ。
ドローンポートから離陸したSkydio X10は要救助者の元へ向かう。ドローン搭載のカメラで確認した現地の情報は、ドローンパイロットから消防局に共有された。Skydio X10は可視カメラの他にズームカメラやサーマルカメラなども備えるため、多角的な捜索が可能。
消防局との連携により要救助者を救助
普段はなかなか目にする機会がない災害復旧の現場。今回の災害対策訓練は能登半島地震の教訓を生かし、地震発生を想定したシナリオが中心だった。災害の発生は避けられないからこそ、日ごろから備えておく必要がある。いたずらに怖がるのではなく、通信の復旧に備えてくれている人たちを知り、翻って自分にもできる準備を確認する機会としたい。