日立製作所は1月21日、生成AIによる業務変革をリードし、複雑な課題解決やイノベーション創出に取り組むロールモデルとして「GenAIアンバサダー」のポジションを新たに設け、IT/OT(制御・運用技術)の両分野で活躍する生成AI開発・活用のエキスパート16人を任命した。同日にはオンライン・オフラインによる記者説明会を開催した。
16人のメンバーを選出した「GenAIアンバサダー」
まず、日立製作所 Generative AIセンター センター長 兼 デジタルシステム&サービスセクター Chief AI Transformation Officerの吉田順氏は「現在、日立グループ全体に生成AIの環境を提供し、全社員向けの教育、ガイドラインの整備、活用のモニタリングに取り組んでいる。戦略的指針などのトップダウン、実践的適用といったボトムアップの両軸で施策を進めている」と述べた。
初期メンバーとして、全社のAIトランスフォーメーションを牽引するデジタルシステム&サービスセクターから経営、営業・マーケティング、データ分析、システム開発・保守、インフラ・機器の制御・運用までの各業務に精通し、定型業務だけでなく、専門的で高度な非定型業務にも生成AIの本格適用を図るITエンジニア、生成AIエンジニア、LLM(大規模言語モデル)エンジニアなどのメンバーを選出した。
同社ではシステム開発やカスタマーサービス・保守業務に加え、AWS(Amazon Web Services)やNVIDIA、Google Cloud、Microsoftをはじめグローバルのパートナーとも連携し、1000件以上の生成AI活用のユースケースを創出している。
こうした国内外で生成AIのユースケースを発信していく中で、同社では顧客向けのソリューションも拡充。
「生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada」は、オフィスワーカー、フロントラインワーカー向けの業種・業務別ソリューションに加え、コンサルティング、業務特化型LLM構築・運用サービス、生成AI業務適用サービスにより、生成AIを活用した業務効率化、サービスの高度化などを推進する顧客を伴走型で支援している。
AIの適切な使い方を提示
一例としてシステム開発フレームワークはシステム開発現場において、生成AIを効率的に活用できるようにフレームワークを開発し、ソースコードの生成からテストまでをバッチ処理で大量に一括生成したり、レガシーマイグレーションでは現行のソースコードから復元した設計書をもとにソースコードを生成したりすることができる。
また、安全管理業務の効率化では現場担当者が生成AIに対策内容のアドバイスを受けることで安全管理の品質向上・効率化を実現しており、社内外のユースケースでの検証成果もふまえ、生成AIの本格的な業務適用を伴走型で支援するサービスを提供している。
一方、AIエージェントに向けた取り組みとしては、IT/OTの領域で形式知と暗黙知の両方を学習させたAIエージェントを組み合わせ、フロントラインワーカーの生産性向上を目指す考えだ。
具体的には製造設備保全支援エージェントして、設計図面を知識グラフとして学習し、システム原因スキルを活用して生成AIで推論することで、原因・対策の推定精度90%、回答を10秒以内に行うという。
GenAIアンバサダーは、ユースケースなどで確立した先進の技術や深いドメインナレッジを強みに、社内外のAIトランスフォーメーションを推進するとともに、自らの経験をもとに生成AIの価値や可能性をタイムリーに伝えるメッセンジャーとしての役割を担う。
吉田氏は「AIと人の関係を見つめ直して、AIの適切な使い方を提示していく。UI/UXも大事にしつつ、AIの適用を進めていくということが当社の取り組みになる」と力を込めていた。
積極的な生成AI人材の育成
続いて、日立製作所 デジタルシステム&サービスセクター Global Head of Talent Managementの和田深雪氏が同社における人材育成に関して、説明に立った。
和田氏は「昨年の『Hitachi Investor Day』において生成AIスペシャリスト5万人の育成に加え、全従業員を生成AI Readyにすることを目指すと発表した。特に、生成AIスペシャリストの育成については2027年度までに、すべてのITエンジニアが生成AIプロフェッショナルを目指し、必要なスキリングと環境整備に投資している」と語った。
グローバルの日立グループ全体も対象となっており、2024年度は最優先事項として生成AI人材の重要な役割の特定と、主要な投資対象を分類。そして「生成AI知識を有するITエンジニア」「生成AIエンジニア」「LLMエンジニア」の3つの人材類型に定義した。
同氏は「これらの定義は技術革新やビジネストレンドで適宜変化していくものであり、アジャイルに更新されていくもの。また、生成AIプロフェッショナルが新しい価値を生み出す人材であることに対し、全従業員が生成AIを活用する人材として業界をリードしていく組織を目指し、人材の確保・開発に注力していく」と強調した。
生成AI Readyに向けた施策としては、徹底活用に向けた意識醸成とリテラシーの向上が必要となることから、知識・スキルを全従業員向けに提供。すでに導入しているLXP(学習体験プラットフォーム)を活用し、生成AIのリテラシー教育を3万8000人の従業員に提供している。また、アライアンスパートナーの認定資格取得については、2024年度に1万1000人が受験し、2027年度までに5万人が受験を予定している。
加えて、人材開発だけではない重要なこととして組織の行動変容も推進。生成AI事業における機会創出のためにはアップスキリングのほか、エンジニアの意識変革や動機付けなどを促すことが不可欠だという。そのため、社内イベントとして「Info Session」や「Hitachi AI Accelerater」の開催や、生成AIを活用した独自開発のフレームワークのトレーニングを実施。そのほか、営業・フロント人材向けに社内コミュニティ取材の実践セミナーを開き、プロンプトの公開などを行っている。
今後の展望
今後、GenAIアンバサダーは、こうしたAIトランスフォーメーションの実践と社内外コミュニケーションの両輪を回しつつ、生成AI活用の価値や可能性を伝えていく。具体的には、自主・協賛イベントでの登壇をはじめ、SNSやウェブサイトなど活用した情報発信を積極的に行う方針だ。
また、システム開発の高度化やOT領域での適用、形式知・暗黙知を学習させたAIエージェント開発、生成AI環境の強化、戦略・提案作成の自動化など、生成AI活用の最前線を顧客やパートナーと共有することで議論を活性化し、それぞれの課題にあったベストプラクティスへの迅速な落とし込みを支援する。
同社では、確立した生成AI活用のユースケースに加え、進行形のトライ&エラーも含めて柔軟に発信していくことで、生成AI事業の認知・共感を広げ、長期的な信頼関係の構築につなげるとともに、イノベーションの創出や生成AIの社会実装を促進していく考えだ。