日立建機は1970年に日立製作所から分離独立し、2022年に日立グループからの独立。現在、第二の創業の変革期にあり、建設機械の稼働データを活用するサービスを開発するなど、ソリューションプロバイダーとしての顔も持っている。同社は今後、顧客の課題をより迅速に解決できる「真のソリューションプロバイダー」へと成長することを目指しており、そのために全社的にDXを推進してさまざまな取り組みを行っているという。

2024年12月11日~12日に開催された「TECH+フォーラム 製造業DX 2024 Dec. ありたい姿に向かうための次なる一手」に同社 理事 DX推進本部 本部長の桃木典子氏が登壇。人財育成や文化の変革、戦略アプリの開発など、同社のDXにおける取り組みの内容を紹介した。

顧客の課題解決のためのソリューション提供を目指す

講演冒頭で桃木氏は、日立建機が現在、安全性と生産性の向上、ライフサイクルコストの低減といった顧客の課題を、建設機械のハードウェアとデジタルを駆使することで解決しようと取り組んでいることを紹介した。そのなかで重要なものとして位置付けられているのが、顧客に寄り添う革新的ソリューションを提供するための取り組みだ。

「ハードウェア製品の進化とデータの連携、そしてデジタルを活用することで、お客さまの課題を解決できる最適なソリューションを迅速に提供できるよう取り組んでいます」(桃木氏)

この取り組みは、ソリューション1.0から3.0まで進化の過程が定義されている。すでに完了した1.0では、機械の稼働データを顧客のサポートに活かす「ConSite」と呼ばれるサービスの提供などを実現させた。現在はデータ活用による製品の進化を目指す2.0の段階にあり、3.0では顧客や異業種パートナーと協創しながら顧客の生産現場をより良くしていくことに取り組んでいく計画だ。

  • ソリューション1.0から3.0の過程

「CIF」を基本とするDX戦略の3つの柱

日立建機では2020年からDXに取り組んでいるが、その戦略の基本には、常に顧客の課題を行動の起点とするという「CIF(Customer Interest First)」の考え方がある。桃木氏は、CIFは同社のDNAに組み込まれた考え方であり、真のソリューションプロバイダーとして成長するためにも非常に重要なものであると説明した。

とはいえ、順風満帆なスタートだったわけではない。DXに取り組み始めた当時は、経営陣からも現場からも理解を得るのが難しかったと同氏は明かす。そこでDXという言葉を「日立建機の強みである現場の力を活かすことを考え、卓越した現場改革力を身に付ける『オペレーショナルエクセレンス』を目指す」と言い換えたところ、前向きにDXを進めることができるようになったという。

組織の面では、全社DXをリードするDX推進本部を設立し、2030年までの大きなマイルストーンを策定した。その内容では2025年までに全社業務改革とオペレーショナルエクセレンスを推進、それ以降に収益構造やビジネスモデルの変革に取り組むことを定めている。

  • DX推進本部のマイルストーン

ソリューション2.0の取り組みにおいては、アジャイルで業務改革しながら、販売、生産、部品・サービスなどの各事業で戦略アプリを開発することを決めた。そのためには文化の醸成と人財の育成、投資の変革を実施することが重要である。また、開発のためにはDX基盤が必要になる。現在は、文化・人財育成・投資の変革、戦略アプリ開発、DX基盤整備の3つを重要な柱としてDXを推進している。

DXの具体的な取り組みの内容とは

桃木氏は、同社が実際に取り組んできた内容について以下のように説明した。

人財育成の変革

文化の変革を実現するには人財が重要であるため、まずデジタル人財育成プログラムを整備した。DX基礎知識の研修を広く実施して全社のデジタルリテラシーを底上げするとともに、部門ごとの実践的スキル向上のための研修も設定している。また、各職場でDXを推進する人財、リーダーとなる人財を育成するための「顧客価値起点によるDX事業創出力」の教育にも力を入れている。さらに、アジャイル文化の重要性を説く幹部向けのDXセミナーや、全社の現場向けに具体的な事例を説明するセミナーも実施している。

アジャイル文化への変革

日立建機はハードウェアメーカーであり、これまで基幹システムもウォーターフォールで開発してきた。そのため急速にアジャイル文化へと変革するのは難しい。そこで、アジャイル開発で進める先行プロジェクトをつくり、その効果を実感してもらうことで意識の変化を促した。また、幹部もアジャイル開発は未経験だったため、定期的な報告会ではさまざまなKPIをつくり前進していることを示し、理解を得るようにしたという。

投資の変革

革新的なソリューションのためには投資が必要になるため、売上の一定割合を上限とする戦略投資枠を新設した。また、投資対効果の測定方法の見直しも実施。従来は、どのくらい効率化されたかという費用対効果が重視されていたが、戦略アプリの場合はすぐに利益に結び付かないことも多い。そこで新たに顧客との接触回数や見積もり件数といったKPIをつくり、その効果を定期的に確認して次のフェーズの投資を判断するという方法に変えた。

戦略アプリの開発

事業ごとに開発する戦略アプリとしては、すでに営業支援用の「DX-C(DX-CONSULTING)」が成果を上げている。現場での顧客の要求に最速で対応することを目的として、顧客の機械の稼働状況から寿命を予測したり、現場で取引履歴を確認したりできるようにした。その場で即時対応できるため機会損失を防げるだけでなく、機械の入れ替えや売却を熟練の営業職でなくてもすぐに提案できるようになった。さらに、このアプリを使うことが売上の増加に直結することも分かったという。これを低頻度で使う営業職でも前年比で5パーセントの売上増、高頻度で使った場合は10パーセント増という結果が出ているそうだ。

「DNA(Dealer Network Acceleration)」プロジェクトは顧客接点改革のための戦略アプリだ。「モノ」である顧客の持つ機械や求めている機械と、購入時のファイナンス契約やメンテナンス契約といった「コト」を連動させ、さらに顧客の全ての機械を管理する機材管理ソリューション「CONNECT」を提供する。同社は海外では代理店を介してビジネスを展開しているため、このソリューションにより顧客や代理店とつながりを強化することがとても重要なのだ。またこのCONNECTは顧客や代理店からの意見を受けて改善し続けていて、ユーザーフレンドリーをコンセプトに必要な情報をすぐに見られるよう工夫しているという。

DX基盤の整備

戦略アプリ開発にあたって、基幹システムや機械の稼働データ、CRMなど多様なところから情報を集めるとなると、開発のアジリティは低くなる。そこで基幹システムと戦略アプリの間にDX基盤をつくることにした。具体的には、基幹システムや機械の稼働データからのデータをデータレイクに蓄積し、API基盤から戦略アプリに必要な情報を渡す構成とした。

同社のDX基盤は現在、データレイクとAPI基盤は整備されているが、「今後はこれに加えてデータクレンジングの自動化やデータカタログの整備も必要になる」と桃木氏は話す。さらに生成AIを活用するためにはプロンプトエンジニアリングの支援が必要になるし、多くのユーザーがデータにアクセスできるようになると、特定のデータを特定のユーザーだけに見せられるような動的なマスキングやデータクリーンルームなども必要になる。機械はさらに高度化することが見込まれるため、IoT基盤やデータストリーム基盤の強化も重要な課題だ。今後はこれらにも取り組みを広げたいと同氏は言う。

「文化・人材育成・投資の変革、戦略アプリの開発、DX基盤の整備という3つの柱はまだ道半ばです。これをさらに進化させてビジネスの変化に対応する力を強化し、お客さまの課題解決に取り組むことで、ビジネスの拡大につなげていきます」(桃木氏)