「信頼、信用という銀行ビジネスの根幹を揺るがすものだと厳粛に受け止めており、お客様や関係者の皆様に心よりお詫び申し上げる」ーこう話して頭を下げるのは三菱UFJ銀行頭取の半沢淳一氏。
24年12月16日、三菱UFJ銀行は元行員による貸金庫からの顧客資産の窃盗事件を受けて、事件の概要や再発防止策について発表した。問題が発覚したのは24年10月31日のこと。貸金庫の中身が減っているのでは?という顧客からの問い合わせからだった。
調査の結果、顧客資産を窃盗したのは、練馬支店(統合した旧江古田支店を含む)、玉川支店で支店の店頭業務責任者、支店長代理を務めていた40代の女性行員であることがわかった。窃盗した資産は投資を含む私的な用途で使ったと供述している。
被害に遭ったのは前述の支店で貸金庫を契約していた顧客のうち約60名で、被害総額は時価十数億円程度。被害が確定できた顧客に対しては、すでに補償を実行している。
なぜ、管理が厳重とされる貸金庫から資産を窃盗できたのか?
貸金庫の開錠には、顧客が持つ鍵と銀行鍵の両方が必要。ただ、顧客が鍵を紛失した時などに備えた予備鍵があり、銀行が保管している。元行員は支店の貸金庫管理の責任者という立場を利用し、予備鍵を不正に使用して顧客資産を窃盗。
誰が鍵を使用し、入室したかという記録は取っていたものの、その運用に甘さがあった形で、「リスクの認識が十分でなかった」(執行役員カスタマーサービス推進部長の向井理人氏)。再発防止策として支店に保管していた予備鍵を本部に集約する。
半沢氏は「一度つくった管理体制を不断に見直す意識に欠けていた」と反省の弁を述べる。自身を含む役員の処分については、真因の分析や再発防止策の実行に取り組む中で具体的に検討するとした。
内部者が犯意を持った時にどう対応するかー。今回の事案は管理体制とともに、社員の倫理観をどう養成するかも問われる問題である。