デジタルが人や社会に及ぼす影響を調査するため、経済協力開発機構(OECD)とCiscoが「Digital Well-being Hub」を立ち上げた。デジタル技術が人々のウェルビーイングや幸福度に及ぼす影響を多角的に調査するものだ。
Ciscoのシニアバイスプレジデント 兼 グローバル イノベーション オフィサーを務めるGuy Diedrich氏は「デジタルがウェルネスに与える影響を調べる世界初の調査」と説明する。その背景には、世界の人々をコネクトしてきた同社のプライドと責任感があるようだ。
40%が基本的なデジタルスキルがない
デジタル技術はリモートからの作業を可能にしたり、簡単に情報が得られたり、自宅にいながらにして商品が購入できたり、とさまざまなメリットがある。社会的に見ると、簡単に人と繋がることができる一方で、若年層を中心にいじめや中毒性も指摘されている。オーストラリア政府は先に、16歳未満のSNS利用を禁止する法案を可決している。
38カ国が加盟するOECDの調査によると、加盟国に住み、インターネットを使う人のうち14%が孤独を感じていることが明らかになった。40%が基本的なデジタルスキルがないとも報告している。
デジタル技術のポジティブとネガティブ、両方の影響を包括的に理解するデータが不足しているというところが、Digital Well-being Hubの出発点だという。
Digital Well-being Hubは、一般の人々の体験談を収集するクラウドソーシングの機能(同Hubでは、誰もが参加できるサーベイを用意している)とデータを分析する研究ツールなどで構成される。
データは人々の生活満足度、メンタルヘルス、デジタルスキル、サイバーセキュリティに対する意識、AIツールの利用状況など、幅広い側面から収集する。Diedrich氏は「デジタルライフの質を向上させるには、デジタル体験を研究、分析、測定する必要がある」と述べている。
良い影響、悪い影響の両方を知ることは自社の責任
Ciscoは国のデジタル化を支援するCDA(Country Digital Acceleration)を2015年に立ち上げ、現在では日本を含む約50カ国で展開。OECDと組むDigital Well-being HubはCDAのもとで展開している。
CDAを主導する立場でもあるDiedrich氏は「デジタルのウェルネスについての世界的な調査としては初」と述べ、Ciscoが長年続けている「Cisco Digital Readiness Index」に触れつつ「ウェルネスという新しい観点でデジタル化の成熟度を測定したかった」と説明する。
また、同氏は「ソーシャルメディア企業はこの調査から、自社が人々に与えている良い面と悪い面を見ることができる。孤独感、いじめ、そのほかのメンタルヘルスを脅かすものをどうやって克服するのかを考える機会になれば」と期待を語る。
Ciscoはルータやスイッチなど、デジタル化を促進する機器やサービスを販売する立場だ。このような取り組みを行うことは、収益を追求することと矛盾することになるかもしれない。
この点についてDiedrich氏は「企業の社会的責任だ。この業界はイノベーションにより報われている。人々の生活に与える影響を考えるのは社会学者などアカデミックやメンタルヘルスの専門家の仕事だ、と言い切ることもできるかもしれない。しかし、世界のトラフィックの約80%がCiscoの機器を通過していることを考慮すると、(ネットワークやデジタル化の)影響を考えることはわれわれの責任だと考えた」と述べている。
このような姿勢についてDiedrich氏は「(企業に限らず)完璧はない。それを認めることが第一歩だ。デジタルの良さだけではない全体像を調べることが販売や開発する企業として、Ciscoをより良い存在にする。そうでなければ、業界で生き残ることはできない」と強調している。
OECDとCiscoは2025年に得られた声を調べて、公開する計画だ。「学術界、社会学者、メンタルヘルスの専門家、技術者、政府などに活用してほしい」とDiedrich氏は期待を語った。