NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は12月2日、ICTを活用した循環式陸上養殖システムの研究開発と提供を手掛ける子会社「NTTアクア」について、同日より事業を開始することを発表して説明会を開いた。なお、企業設立は10月7日。NTTアクアは紅仁(あかじん)との協定により沖縄県を除く日本全国で陸上養殖事業者を支援し、システムの提供にとどまらずコンサルティングや資材提供なども予定しているという。
NTTアクアの社長に就任した山本圭一氏は「水産業が盛んで活性のある地域をいくつも見てきた。水産業を元気にすることで各地域を元気にできると思う。地元のブランド魚が生まれれば近隣住民の愛着にもつながるだろう。水産業を盛り上げて各地域を元気にしていきたい」と抱負を述べた。
NTTアクアの事業概要
NTTアクアは紅仁と包括連携協定契約を締結し、これから陸上養殖事業を始めたい、または拡大したい事業者を対象として、ICTを活用した循環式陸上養殖システムを提供する。沖縄県においては紅仁が同様のサービスを提供。
陸上養殖は閉鎖された設備内で環境を管理するため、海面養殖と比較して気候など外部からの影響を受けにくい。また、水質や水温を安定して管理しやすく疾病の抑制も期待できる。加えて、海面養殖とは異なり漁業権が不要で、海と比べて労働環境に危険が少ないことから、女性や高齢者などの新規参入もしやすい。
そこでNTTアクアでは、安定したろ過技術をはじめとする陸上養殖技術を持つ紅仁と連携し、NTT Comが強みとするAIやICTを組み合わせることで、「誰もが参加できる陸上養殖」を実現する。地域における雇用の創出や水産業の振興、魚食文化の啓発、環境保全など、地域社会が抱える課題の解決と文化の啓発にも貢献するとしている。
2030年までに累計数百億円規模の売上を目標とする。さらに将来的には、種苗やエサの提供などにも事業を拡大する予定だ。種苗から成魚の出荷に至るまで、養殖事業者をトータルにサポートする体制を目指す。
なお、東日本電信電話(NTT東日本)も2022年1月に完全閉鎖循環式陸上養殖のビジネス化に向けたプロジェクトを開始している。両社は異なるアプローチで陸上養殖に挑戦するという。NTTアクアは生物ろ過槽を使わない循環システムを特徴とするが、NTT東日本は生物ろ過槽を使いながら、好適環境水による養殖ビジネスを展開。今後は相互に補完・連携しながらより良い養殖技術の確立とビジネス化に向けた議論を継続する。
NTT Comの執行役員でNTTアクアの取締役も務める渡辺聡氏は「NTTアクアは陸上養殖自体をなりわいとするのではなく、ICTを組み込んだ循環型陸上養殖システムの提供により、養殖事業者をトータルにサポートする事業を展開する」と説明した。
生物ろ過槽を使わない紅仁のろ過技術
通常、国内の既存の循環式陸上養殖設備では、細菌(バクテリア)によりアンモニアなどの有害物質を分解して水を浄化する「生物ろ過槽」が用いられる。しかし生物ろ過槽は飼育用水槽の6~8割ほどの大きさが必要とされ、面積効率が課題となる。
一方で紅仁が持つろ過システムは生物ろ過槽が不要なため、これまでよりも狭い土地で陸上養殖を始められるという。またメンテナンスも容易で、作業効率の向上が見込める。バクテリアを使わないろ過槽は魚の成長に合わせた浄化も可能となるため、1水槽当たりの養殖密度を高くして育てられる。
陸上養殖向けICTプラットフォーム
NTTアクアが提供するICTプラットフォームは、水槽の水温や塩分濃度、pHなどをダッシュボード上で一元管理可能。NTTドコモが2017年から提供している海洋観測サービス「ICTブイ」のノウハウを活用している。
プラットフォーム上の情報はNTTアクアが管理する。情報はおよそ10分に一度更新され、異常発生時にはメールやチャットなどでリアルタイムに養殖事業者に通知される。
適切な水質や水温は魚種ごとに異なるため、NTTアクアの研究結果に応じてプラットフォームをチューニングするという。まずはハタ類2種から対応を開始するが、今後、順次対象魚種の拡大に向けた研究を開始する。
「一般的に養殖されている魚種はなかなか価格優位性を打ち出しにくい。なるべく高単価な魚種で、各地域の特色や飼育可能な水温帯などを考慮しながら対象を拡大したい。要望がある場合はまずNTTアクアがトライアル的に養殖を開始し、プラットフォームをチューニングして養殖事業者に提供していく」(山本氏)