三重県に本部を置くスーパーサンシは、1970年代から宅配サービスを始め、1997年にはネットスーパー事業にも進出。2019年からは「JAPAN NetMarket」と名付けたネット宅配のプラットフォーム提供やコンサルティング事業も展開している。同社 専務取締役 NetMarket事業本部長 システム部/開発部統括の高倉照和氏は、「コンサルティングを行うなかで、ネットスーパーを成功に導く戦略方程式が見えてきた」と語る。

11月12日~14日に開催された「DCSオンライン×TECH+セミナー 2024 Nov. リアルとECの融合で実現する顧客体験価値向上の最新トレンド」に同氏が登壇。「最も現実的な売上大幅アップ策」(高倉氏)として、ネットスーパー事業を展開する際の必勝法を明かした。

車からスマホへ、顧客のアクセスは大きく変動

講演冒頭で高倉氏は、小売業にとって現在は、半世紀に一度の地殻変動が起きており、顧客のアクセス方法が大きく変わっていると話した。50年前にはモータリゼーションという大きな変動があり、駐車場のある郊外の店舗が有利になった。そして今、アクセスは車からスマホに変わろうとしている。

「お客さまのアクセスの変化に取り残されることは、小売業にとってはあってはならないこと。スマホ社会なのにネットアクセスを持たないのは、車社会なのに駐車場を持たないのと同じです」(高倉氏)

市場を見ても、ネット通販の売上は現在、伸び続けている。新型コロナウィルス感染症の流行で需要が急激に増加し、その後も同様の傾向が続く。つまり現在はネットスーパー好調期だと考えられるのだ。

従来、生鮮品はネットでは売れないと思われていたが、これもすでに変わっていると同氏は言う。スーパーサンシでは生鮮品がネット宅配比率の5割を上回る日も多いそうだ。こうしたネットでの生鮮品の比率は10年以上前から伸びていて、コロナ禍で急加速し、その後も高止まりしている。

「もうすでにゲームチェンジは起こっているのです」(高倉氏)

ネットは先手必勝

スーパー、百貨店、それにネット通販の売上の推移を見ると、スーパーは1997年をピークに下降して2010年以降は横ばい、百貨店はずっと右肩下がりだ。これに対し、2000年代半ば以降ネット通販は伸び続け、現在まで急こう配の右肩上がりになっている。つまり消費そのものが減少したのではなく、スーパーや百貨店の売上の減少分をネットスーパーが全て吸収しているかたちだ。

  • スーパー、百貨店、それにネット通販の売上の推移

店舗はもちろん大事にすべきだが、店舗だけでは伸び悩む。周りの大手は必ずネット攻勢を仕掛けてくるのだから、「できるだけ早くネット通販に着手すべき」だと高倉氏は話す。なぜなら、店舗では後から大規模店を出店したり、最新の店舗をつくったりすることができ、後攻が有利になる点が多いが、ネットは立地や売り場面積に左右されないため、先手必勝であるためだ。

人口が減少している地方でも、ネット通販は伸びている。これは、実店舗に買い物に行くことが難しい層の増加によるところが大きい。その理由は立地や天候、年齢、持ち運びのストレスなどさまざまあるが、実店舗しかないとしたらこれらの層を取り逃がすことになり、機会を大きくロスする。

「こうした買いに行けない層は大きなフロンティアなのです」(高倉氏)

顧客に実店舗に来店してもらうためには、店に行く楽しさを感じてもらう必要があるが、店舗に仕掛けをするにはコストがかかる。しかしネットならそれほどコストはかからない。アプリにゲーム性を持たせるなど、店に行くよりスマホで買うほうが楽しいと感じてもらえば良いのだ。

「そうなれば一気に景色が変わります」(高倉氏)

効率が良いのは店舗出荷型ネットスーパー

同社では、店舗出荷型ネットスーパーを手がけている。コストがかからず効率が良いのがこのタイプなのだと高倉氏は説明する。例えばネットと店舗で、ある日の売上が同じ500万円だったとしても、店舗では内装設備から加工賃、売り込みや接客などにコストがかかり、さらに生鮮や総菜には廃棄ロスも発生する。

これに対しネットではこれらのコストは不要だ。同社では全てパート社員による5時間営業でネット事業をこなしているため、非常に効率が良い。既存資産、バックヤードスペースを活用できるため家賃や建設コストもかからない。そのため、すぐに新たな売上の柱をつくることができるのが店舗出荷型ネットスーパーなのだ。

4つのネットスーパー必勝法

「ネットスーパーには必勝法がある」と高倉氏は言う。ネットスーパーも今後競合が予想されるため、オセロゲームで四隅を取るように、必要なポイントを先に押さえる必要があるといい、以下の4つを挙げた。

まず、月会費制のサブスクリプションサービスにすることだ。日本の食品の宅配には生協という“巨人”が存在するため、ここに勝負を挑むならサブスクリプションが最適解になる。

次に、自社配送を行うことだ。物流コストの上昇により、委託配送では利益が少なくなる。それに配達は宅配の心臓部であるから、それを外部委託してしまえば、「自分の商売ではなくなってしまう」と同氏は説明する。

そしてロッカーを設置することも必要だ。ロッカー設置により、それまで6分かかった受け渡しが1分になるとすれば、1件で5分縮められる。全て合計すれば、相当な効率化になるわけだ。

高倉氏が最も重要とするのが、ネットスーパーで売り場となるアプリを常に進化させ続けることだ。ローコストでハイスペックのアプリを実現するのは難しいが、自社だけではなく他社とも協力してプラットフォームをつくることが重要である。同社でそれを実現したのが、JAPAN NetMarketだ。

「ただきれいに商品を並べるだけではなく、インパクトがあって購買意欲を喚起でき、売上につなげられることを目指してアプリをつくっています」(高倉氏)

ネット宅配には「鉄板完勝パターン」がある

続いて高倉氏は、ネット宅配の「鉄板完勝パターン」も明かした。それは“低単価小商圏高密度”を狙うことだという。ローカル店なら店舗から車で30分、半径15キロ、都心型なら2キロ程度の小商圏を対象に、一人あたり月額2万5000円以上の購買を目指すのだ。逆に効率が悪いのが高単価、大商圏、低密度となる。とくに高単価マーケットには宅配に関する人材や知見、資金を大きく投入している生協や大手数社があるため、レッドオーシャンになっている。だから地域密着のスーパーはサプスクで低単価、小商圏を狙うのだ。それを押さえてしまえば他社が入ってこられないし、大手や生協とも直接ぶつからずに済む。

「宅配においては、地元のローカルスーパーがもっとも有利」だと高倉氏は言う。しかしそのアドバンテージを活かすには、やはり先手を取ることが必要だ。具体的には、会費を払ってもよいから良い商品を届けてほしいという優良顧客を先に取ることである。地元のネット商圏を押さえられるのは先行の1社のみになるため、大手や外資より先にここを押さえなければならない。また、介護施設や幼稚園、工場といった法人需要を店舗で取り逃がしているなら、これをネットで押さえることも重要だ。

ネット宅配は、県内で二番手、三番手にいるスーパーがネット市場でトップを狙える絶好のチャンスになる。これから新店舗をつくって売上でトップになるのは難しいが、前述のように先手を取ればネット市場ではその商圏でトップになれる。既存店にネット宅配を導入して店舗出荷型ネットスーパーにすれば、前述のように効率良くローコストで利益を生み出せる。それだけではなく、ネット宅配なら安売りの必要もない。

「チラシを配って安売りをしても売上が上がらない時代に、既存店の売上を大幅に上げ続けるにはどうすればよいのか。それはネット宅配を導入する以外にはないのです。そしてこれからは、店でも買える、ネットでも買えるというハイブリッド型店舗が主流になる時代が必ずやってきます」(高倉氏)