日本電信電話(以下、NTT)は11月25日~29日、NTT武蔵野研究開発センタ(東京都 武蔵野市)で最新の研究成果を紹介する展示会「NTT R&Dフォーラム2024」を開催する。今年のテーマは「IOWN INTEGRAL」。INTEGRALには「積分」という意味の他に「不可欠」という意味がある。
イベントの開催に先駆けて、執行役員で研究企画部門長を務める木下真吾氏がIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)およびLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)tsuzumiの研究成果をメディア向けに公開した。
日台間のリモートプロダクションをIOWNで実現
木下氏はまず、ロードマップを示しなら、IOWNの開発の進捗を振り返った。IOWNの開発のフェーズはIOWN 1.0から4.0まで、大きく4つに分けられる。2024年時点ではIOWN 1.0が提供されており、これはデータセンター間のネットワークの光化を目指すというもの。IOWN 2.0ではサーバのボード間、IOWN 3.0ではチップ間、IOWN 4.0ではチップ内のネットワークの光化を実現する。
APNの開発進捗は?
IOWNの構成技術の一つが、ネットワークをエンド・ツー・エンドで光で接続するAPN(All-Photonics Network)。NTT東日本とNTT西日本は11月18日に、最大800ギガビット / 秒の帯域保証を特徴とする「All-Photonics Connect powered by IOWN」を発表。従来版ではインタフェースとしてOTU-4を採用していたが、今回新たにイーサネットにも対応。また、終端装置をユーザー拠点ではなくNTTの基地局に設置できるようになり、容易な導入を実現する。
8月には、中華電信と共同で日本-台湾間約3000キロメートルを国際間APNで接続。片道の遅延は約17ミリ秒だったという。ちなみに、3000キロメートルを光が進む時間は約15ミリ秒だという。
この日台間のネットワークを用いて、さまざまな実証実験が進められている。日本で生まれたデータを台湾のデータセンターにバックアップする場面を想定した実証実験では、APNを用いた場合のFTP(File Transfer Protocol)転送速度は4.77ギガビット / 秒。同帯域条件における転送速度は、フレッツ光が1.56ギガビット / 秒、I-WANが2.81ギガビット / 秒だ。高速なデータ転送により、広域災害時などを見据えた日台間のバックアップが期待できる。
同社はTBSテレビと共同で、日台間のリモートプロダクション実証にも成功している。TBS赤坂スタジオ(東京都 港区)、サッカースタジアム(埼玉県 さいたま市)、中華電信(台湾)の3拠点を、東京都蔵前の制作プライベートクラウドを介してAPNで接続。NTT武蔵野研究開発センタ内にコントロールパネルでスイッチングなどの映像制作ができる環境を構築した。
IOWNで実現するサステナブルな未来
これらの他にも、最近では「ワット・ビット連携」の実現に向けた検討も進められているという。ワット・ビット連携とは、脱炭素エネルギー創出源の近隣にデータセンターを整備するという考え方だ。
現在のデータセンター需要は大手町から50キロメートル以内に集中している一方で、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーはより遠方で創出されている。光による通信コストが送電コストよりも安価であることから、データセンターを電源の近くに設置しAPNで接続することで、低遅延かつ低価格でネットワークが利用できるようになる。
加えて、ワークロード自体をダイナミックに制御する構想も進められている。例えば、東京オフィスで作業しながら、九州が晴れていれば太陽光発電により創出されたエネルギーで九州のクラウドを使い、天候が変わったら北海道のデータセンターに処理を移動させる、といった方式が想定される。電力を移動させるのではなく、データやワークロードを移動させることでサステナブルなICT活用が期待できる。
現在APNは専用線で提供されるが、将来的にはオンデマンド光パス制御で提供される予定だ。これにより、単一のAPNの中で複数の波長が衝突することなく共存できるようになり、接続先をダイナミックに切り替えられる。これにより、従来は熟練の作業者が数時間かけていた光波長パスの設計と設定を、数分以内に自動で実行できるようになるとのことだ。
光電融合デバイスの実用化も期待
IOWN 2.0以降は、光技術と電子技術を組み合わせたPEC(Photonics-Electronics Convergence:光電融合)デバイスが登場する。2028年度以降の実用化が待たれるPEC-3はチップ間の通信が光化されるが、従来のシリコンフォトニクスに加えてメンブレン化合物半導体の開発も進められている。
炭化ケイ素(SiC)基板上のインジウムリン(InP)系を、従来の縦堆積から横堆積とすることでメンブレン化することで、直接変調レーザー小型化を実現する。