今年、Dropbox Japanは設立10周年を迎えた。先日、米国本社が昨年発表したAI搭載の検索ツール「Dropbox Dash」のビジネス版として「Dropbox Dash for Business」の提供開始をアナウンスしたほか、10月30日には社内メモでDropbox 共同設立者兼CEOのDrew Houston(ドリュー・ハウストン)氏がグローバルの従業員20%のレイオフを告げている。ここ最近は何かと変化が起きている同社だが、このほどハウストン氏が日本メディアのグループインタビューに応じた。
ユニバーサルな検索ツール「Dropbox Dash」とは
まず、ハウストン氏はDropboxの設立に至った経緯について「一昔前は、さまざまな情報を探したり、整理したり、シェアしたりすることを安全に行うことが非常に難しいと感じていました。会社を立ち上げたのは、そのあたりの悩みからです」と話す。
このような至極シンプルな理由から同氏はDropboxを立ち上げたわけだが、昨今では環境に変化が起きているとも語る。同氏は「PCのデスクトップにファイルが100個並んでいたり、ブラウザにタブが100個並んでいたりする状況があります。また、探しやすい情報もあれば、探しづらい情報もあります」と指摘。
そのような課題を解決するために同社は昨年にDropbox Dashを発表。そして、今年10月にDropbox Dash for Businessの提供を開始、すでに米国では利用可能となっており、2025年半ばには日本でも利用開始を予定し、URLの保存や整理、取得を行う「Stack」などの機能を持つ。
昨年の同社による調査では、ナレッジワーカーが仕事上で必要なファイルやコンテンツを探す時間は週8.8時間となっているほか、69%がアプリ間の移動時間は1日あたり60分という結果になったという。Dropbox Dashは、この「仕事のための作業時間」を削減するために開発されたというわけだ。
ハウストン氏はDropbox Dashについて「ユニバーサルな検索ツールです。1カ所から本人が権限を持っている情報すべてにアクセスできます。GoogleやMicrosoftのスイート製品、Salesforce、Slackなど、あらゆるアプリの情報を検索できるツールです。一気通貫に検索可能なパーソナライズされたAIを備えています。AIの機能自体はパートナーでもあるMetaのLLM(大規模言語モデル)『Llama』をカスタマイズして利用しています」と説明する。
そのうえで同氏は「どこの企業でも管理者の方が分かっていても言いたくない問題として、共有してはいけないデータが共有されてしまっている状態があり、判明したとしてもシステム管理者は追跡することが難しい状況です」との見解を示す。
ただ、Dashはシステム管理者用のコンソールを用意していることから、情報の追跡をしやすくしているほか、危険なデータは共有しないなどの共有設定やアクセス権などの権限設定も可能としている。
グローバル規模のレイオフを敢行
次にDropboxの最新の取り組みについて見ていこう。同社では前述したように10月末に全従業員の20%に相当する528人を削減する方針を社内向けに公表している。
これまで、Dashなどの製品を通じて次の成長フェーズに向けて取り組んできたとしながらも「現在の体制と投資水準を維持しつつ、この過渡期を乗り切ることは持続不可能」と説明している。
また、同氏は「今回の施策は中核となる製品を強化し、新製品の成長を加速するために不可欠なもの」ともメモで語っている。ともすればDashは今後の同社におけるビジネスの中核として位置付けており、今後の同社におけるビジネスそのものを左右する製品であることが窺える。
この点について、ハウストン氏は「当社はクラウドストレージを生業として、設立から17年間で拡大を続けてきました。ユーザー数も順調に拡大し、サブスクリプションで1800万人のユーザーを抱え、大きなベースを作れたと自負しています。ただ、先ほども話したように、昨今では情報が散らばってしまい、知りたい情報にたどり着くまで時間を要してしまうケースは少なくないです。ユーザーが製品に求めるものは使いやすいという、シンプルなことです。“すべてのプラットフォームで使えて、プライバシーを守りながら安全に使える”というユーザーの願いは不変です。そのため、当社はDashとともにユーザーの願いに応じることで、成功を積み重ねていきたいと考えています」と述べている。
続けて「AIのポテンシャルが楽しみだと考える人がいる一方で、セキュリティやガバナンスに対する懸念があるのも事実です。データ漏えいやターゲッティング広告、モデルのトレーニングに使われないかといったことがありますが、Dropboxとしては最も大事なものはユーザーのデータだと考えているので安全性を担保します」と、ハウストン氏は力を込める。
サービスを“モダナイズ”するDropbox
一方で投資についてはAI、クラウドストレージ双方で進めていくようだが、同氏は「重要な点としてグローバルにおけるナレッジワーカーは約10億人が存在しており、カバーできていない範囲は非常に大きい。そう考えると9億8000万人がDropboxを利用していません。とは言え、クラウドストレージを利用してもらう必要はありません」と述べており、Dashに注力していくことを示唆している。
そこで、ハウストン氏はNetflixの話を引き合いに出した。Netflixは創業からしばらくはオンラインで郵送によるDVDレンタルサービスを展開していたが、2007年以降はストリーミングサービスに転換し、世界的な成功を収めた。
同氏はユーザーが何か面白いコンテンツを視聴したいというわけではなく、それをどのような形態で提供するかが変わっただけであり、ユーザーに提供するサービス自体がモダナイズ(近代化)されたという。その一方で、Netflixが変革を起こしたことで従来比10倍~100倍にもなる巨大なマーケットを獲得できたのも事実だ。
こうした例を振り返り、同氏は「Dashも同じだと感じており、これまで利用していたユーザーにはサービスがモダナイズされてAIが使えるようになります。そして、当社にとってはDropboxを利用したことのないユーザーに加え、大きな市場を獲得できると考えています。Netflixの成功はフィジカルにDVDを郵送するという土台がなければ成し遂げることはできなかったですし、当社としてもDropboxに何百万人ものユーザーが重要なデータを預けてくれたからこそ、Dashを提供できるのです」と説く。
そして、ハウストン氏は「インテリジェンスのレイヤが乗り、各企業が持つナレッジを自然言語で相互作用させることが重要であり、Dashはそれを実現できます。当社の価値観は“情報を保存”するから“情報をオーガナイズ、安全に取り扱う”という方向にシフトしています」と述べており、Dropboxの価値観をシフトしていくとともに今後のビジネス拡大に意欲を見せていた。




