楽天グループは11月16日、テクノロジーに関する年次イベント「楽天テクノロジーカンファレンス2024」を開催した。第16回目の開催となった今年のテーマは「AI-nization 4.all(エーアイナイゼーション・フォー・オール)」。国内外のテック企業のリーダーやエンジニア、研究者が集まり、AIに関する議論を交わし合った。
基調講演には楽天Gの三木谷浩史会長兼社長が登壇し、同社におけるAIの活用状況や今後のAI戦略について説明した。三木谷社長は「従業員がみんなAIを使いこなせる会社と、誰も使えない会社、どちらが勝つのかは自明だろう。楽天では、全社員がAIを活用することで、専門知識の壁を乗り越えて生産性を向上していくことを目指す」と語った。
楽天Gが掲げる2つのAI戦略とは?
楽天GのAI戦略は、大きく分けて2つある。1つは、楽天G独自のLLM(大規模言語モデル)である「Rakuten AI」の開発だ。
Rakuten AIの特徴は、同社が持つ膨大な会員データを活用している点。楽天市場や楽天カード、楽天銀行、楽天モバイルなど、同社が手掛けるサービス数は70を超え、日本における会員数は1億以上だ。楽天経済圏で発行するポイントは年間6500億ポイントで、累計発行ポイントは4兆ポイントを超える。「われわれが抱えるデータは、非常にパワフルでユニークだ」と、三木谷社長は強調した。
また、日本語に最適化している点も特徴の1つだ。日本語の言語に最適化された独自の「形態素解析」を活用することで、事前学習や推論のテキスト処理をより効率的にできるようにしている。
Rakuten AIはフランスのAIスタートアップMistral AIのオープンモデルを基に開発された70億パラメータのLLMで、「オープンな日本語LLMにおいてトップの評価を獲得している」(三木谷氏)という。
もう1つのAI戦略が、米OpenAIと協業し、同社の先進的な技術やノウハウを自社に取り入れること。楽天Gは2023年8月にOpenAIと最新AIによるサービス開発に向けて協業すると発表し、2023年11月には、新たなAIプラットフォーム「Rakuten AI for Business」を2024年以降、本格的に提供開始すると発表した。
三木谷社長は「OpenAI以外の強力なAI企業ともパートナーシップを組んでいる。彼らの技術とRakuten AIを組み合わせ、さまざまな事業領域でAIの活用を進めている」と説明した。
三木谷社長「AI時代においても成功を収める」
楽天はこうしたAI技術を社内で活用し、マーケティング、オペレーション、クライアントそれぞれの生産効率の20%向上を目指す「トリプル20」という指標を掲げている。
8000人を超える従業員が毎日Rakuten AIを活用しているといい、コーディングやデータ分析、カスタマー対応といったさまざまな業務で効率化を図っている。
社内への展開だけでなく、提供するサービスにも生成AIを積極的に組み込んでいる。3月には楽天市場の出店者の運営をサポートするAI機能を発表した。
商品の説明文生成やユーザーへの問い合わせ対応用の文章生成といった基本的な機能だけでなく、出品する商品に合った背景の画像を自動生成する機能も提供している。出店者が商品の画像をアップロードすると、商品が置かれていそうな背景画像が自動生成される。例えばソファの場合は、商品がリビングに置かれた画像が複数生成される。
また、10月には傘下の楽天モバイルがAIを使ったチャット形式の検索サービス「Rakuten Link AI」を発表した。同社の契約者限定のSNSアプリに新機能として搭載し、無料で使えるようにした。
AIが質問に回答する際に、インターネット上の情報に加え、楽天Gの独自データを参照する点が特徴だ。例えば、おすすめの旅行先を訪ねると、楽天トラベルのデータを参照しながら答えてくれる。「AIが各種サービスの橋渡し役になる」(三木谷社長)
三木谷社長は「今後さらに楽天経済圏をオープンに拡大させ、AI時代においても成功を収める企業を目指す」と意気込みを見せた。