日本企業のデジタル化推進は、海外諸国に比べて遅れをとっている。総務省が公開した最新の「情報通信白書 」では、デジタル化に関連する取り組みについて、日本企業の回答者の約50%が「未実施/予定なし」と回答しており、米国(21%)やドイツ(17%)との差は倍以上もある。
企業規模別でみると、大企業は約25%、中小企業は約70%が「未実施」であり、業務プロセスの改善に関する全社的なデジタル化推進の取り組みを実施している割合は全体の40%を切っている。このような状況下では当然、デジタル化推進の鍵となるアプリケーション・モダナイゼーションも進んでいない。
グローバルでは、柔軟性や俊敏性の向上、また生成AIなど最新のテクノロジーの活用を視野にいれ、アプリケーション・モダナイゼーションが進展している。こうした市場トレンドの中で、基幹システムも含めてクラウドへの移行が急速に進んでいる。
海外の調査によれば、SaaSアプリケーション導入件数は1社あたり平均130件 で、ガートナー社によると2025年には新規アプリの95%がクラウド上に構築される見通しだ。
「2027年問題」とは
日本国内のアプリケーション・モダナイゼーションの話題の一つに、いわゆる「2027年問題」がある。
インメモリデータベース「SAP HANA」上に構築されたERP「SAP S/4HANA」の前身である「SAP ERP Central Component (SAP ECC)」の標準保守(メインストリームサポート)は、2027年に正式終了することが決まっている。しかし、システム移行のプロセスが複雑であり、移行に多くのコストと時間を必要とすることから、多くの企業がいまだSAP S/4HANAへの移行を完了していない。
また、クラウドへの移行となると、後述のように大きなメリットがあり、SAP社もSAP S/4HANAのクラウド版への移行を推奨しているが、移行のハードルはさらに上がる。
基幹システムをクラウドに移行することは、デジタル化を促進し、生産性を向上させるための重要なステップとなる。具体的には柔軟性や拡張性が向上し、生成AIや機械学習などの最新のイノベーションや機能をすぐに活用できるようになる。
そしてクラウドへ移行することで、企業は急速に変化する市場で競争力を維持しながら、業務の最適化や効率化が可能となる。SAP社がSAP S/4HANAのクラウド版を推奨する主な理由は、この点にある。実際、グローバルでは基幹システムでもクラウドが主流となりつつある。
品質保証とテストに注目が集まる理由
日本企業は、アプリケーション・モダナイゼーションの一貫として、SAP S/4HANAへの移行、さらにはクラウド版への移行を迅速かつ安全に進めていく必要がある。そうした中、以下のような理由から品質保証とテストに注目が集まっている。
複雑化するシステム環境
個々のシステムが高度化しているだけでなく、SAP製品は他のオンプレミス、Web、モバイル、SaaSなどの複数システムとシームレスに連携して機能する必要がある。コストや時間などに制約がある中で、複雑化するシステム環境上で稼働するビジネスプロセス全体の機能検証、品質保証を正しく実施することが難しくなってきており、必ずしも成功裏にプロジェクトが完了しない例も増えている。
リリースサイクルの加速
最新機能を活用するためのアップデートの適用、また市場ニーズに迅速に対応するために、ソフトウェアの頻繁なリリースが求められている。ソフトウェアの更新だけでなく、データやIT環境(OSやブラウザの更新等)の変更も考慮に入れる必要がある。
クラウドを利用する場合はさらに更新頻度が上がり、タイミングの自由度も低下する。システムの一部の変更が他の部分にも影響を与え、ビジネスが中断するリスクがあるため、リリース前にはアプリケーションと環境を徹底的にテストする必要がある。
IT人材不足
日本の市場規模に対するIT人材の数は2030年までに最大79万人が不足すると予測されている。特に基幹システム関連の人材の確保は急務であり、時間的な制約がある中で、貴重な人材をいかに効率よくテストや品質保証に従事させるか、頭を悩ませているプロジェクトリーダーも多い。
こうした環境下において、SAP S/4HANAやクラウドへの移行を迅速かつ安全に行うためには、自社のシステム環境を継続的に評価し、反復的にテストする仕組みを構築する必要がある。
しかし、ほとんどの日本企業のテストは手動で行われているうえ、部門やチームごとにサイロ化されているため労働集約型による一過性のものとなってしまい、上記のような課題に対応できていないケースが多い。
このような状態では、プロジェクトの長期化を招き、コストが増大し、エンド・ツー・エンドでのビジネスプロセスの統合に支障を来す恐れがある。テストがイノベーション、アプリケーション・モダナイゼーションの障害となりかねないのだ 。