伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は11月6日、2024年度上期(2024年4月~9月)の決算説明会を開催した。連結業績は売上収益が前年同期比25.8%増の3456億円、売上総利益が同23.1%増の852億円、営業利益が同44.3%増の303億円、当期純利益は同43.8%増の214億円と増収増益となった。また、受注高は前年同期比19.9%増の3561億円、受注残高は同8.3%増の4539億円となり、売上収益、受注高、受注残高、すべての利益項目において、過去最高を更新した。売上総利益は9期連続の増益だという。
既存ビジネス全般と生成AI基盤構築が好調に推移
伊藤忠テクノソリューションズ 代表取締役社長の新宮達史氏は「既存ビジネスの全般的な伸長に加えて、生成AI基盤構築などが好調に推移した。受注高は20%程度、売上収益、売上総利益は20%超の伸びとなった。そして、営業利益と中間純利益は40%を超えて伸長した」と、高い成長率となった上期業績に自信を見せた。
情報通信分野では、インターネット関連事業者向けの生成AI基盤の構築ビジネスなどにより、サービス基盤関連ビジネスが好調に推移した。通信事業者向けの設備案件が伸長したほか、電力、金融、製造業などの幅広い業種向けに向けて、クラウドインテグレーションやセキュリティが大幅に伸長。特に製造業や金融向けには、データ利活用のための環境整備案件が堅調だったという。
さらに、受注に関しては建設業や官公庁向けのクラウドインテグレーション案件が好調であるのに加え、製造業、石油元売、電力、金融など、広範な業種からの受注を獲得し、高水準で推移。伊藤忠商事およびデジタル事業群との連携による新たなビジネスの獲得も貢献した。
事業グループ別ではエンタープライズと情報通信が売上収益を大きく伸ばす
事業グループ別では、エンタープライズの売上収益が前年同期比142億円増の710億円、受注高が116億円増の719億円、受注残高が91億円増の806億円となった。新宮氏は「製造業向けの各種案件が好調に推移。エネルギー関連施設の耐震解析業務の引き合いなどがあった」と振り返る。
自動車製造業向けプライベートクラウド基盤や統合ストレージ環境の構築、製造業向けネットワーク機器の更改、社内コミュニケーションツールの提供などが寄与した。リテール&サービスの売上収益は前年同期比10億円増の378億円、受注高が50億円増の352億円、受注残高が23億円増の410億円。
新宮氏は「石油元売り向けPOSシステムの更改、流通向け社内インフラ整備などが好調に推移した。SAP関連ビジネスとして、自社開発ソリューションを提供し、ERPと周辺システムの連携支援を行った」と話す。
情報通信の売上収益が309億円増の1075億円、受注高が100億円増の1019億円、受注残高が60億円減の1213億円。同氏は「情報サービス事業者向けの法人ビジネス案件が好調だった。受注、売上収益ともに、インターネット関連事業者向け生成AI基盤の構築や、通信事業者向けの通信設備のシステム構築が増加している」と述べた。
広域・社会インフラでは、売上収益が87億円増の459億円、受注高が141億円増の587億円、受注残高が175億円増の882億円。ガバメントクラウド導入にあわせて、官公庁や地方自治体向けのIT基盤整備に関する案件が伸長。電力自由化に対応した電力会社向けDX案件や発電所異常検知システムのほか、建設会社向けクラウド、半導体製造業向けIT環境整備などの案件が貢献した。
金融の売上収益は54億円増の321億円、受注高が51億円増の342億円、受注残高が42億円増の622億円となり、メガバンク向けゼロトラスト案件や政府系金融機関向け業務システム共通基盤の構築、系統金融機関向けサービス型営業支援システムを提供。カード向け申込受付システム、メガバンク向けリスク管理アプリ基盤の更改案件なども獲得した。
そのほかでは、売上収益が108億円増の514億円、受注高が134億円増の542億円、受注残高が75億円増の606億円。マレーシアやシンガポール、米国の海外事業会社において、現地銀行や病院、官公庁向けIT基盤の整備、データセンター向けサーバ案件の獲得などがあった。
中計で取り組む「高度AI」関連で成果が出始める
一方、同社では、2024年度からスタートした3カ年の「CTCグループ中期経営計画」の実行において、注力する4つのテクノロジー領域を新たに特定し「クラウドネイティブ」「データ&アナリティクス」「セキュリティ」「高度AI」を挙げている。
特に、高度AIでは過去2年間で200億円を超える実績を持つAIインフラ構築や、軽量化したAIエンジンの導入、AIエージェントやAIアバターを提供してきた実績を生かし、AIを用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する体制を整えていくという。
また、共同研究や出資により、AIのユースケースの創出、海外の最新技術を活用した開発も進めており、具体的にはLiquid AIの日本法人に出資し、言語モデル「Edge LFM」の日本語対応を共同で推進。家電製品やロボットなど、リアルタイム処理が求められるエッジデバイスでの活用を見込んでおり、すでに複数の顧客からの引き合いがあるとした。
さらに、慶應義塾大学が2024年9月に開設した最先端AI研究拠点である「慶応AIセンター」には、CTCが研究メンバーとして参画。米カーネギーメロン大学や産業界の研究者とともに、最先端AI研究を通じたユースケースの創出を狙っている。
伊藤忠テクノソリューションズ 取締役兼副社長執行役員 CROの湊原孝徳氏は「CTCの強みは、お客さまが思い描く未来図を最後まで実装し、未来を現実にするお手伝いができる点である。高度AIにより、適切な回答を得るためにはデータが整備されなくてはいけない。データの整備や分析をスピーディーに行うにはクラウドネイティブの考え方が必要になる。それらに対するセキュリティも重要である。4つのテクノロジー領域が密接に連携することになる。未来図に必要なテクノロジーを特定し、先んじて取り組み、つなぎあわせて提供するための指針づくりや体制構築などを進めていく」と決意をにじませた。
なお、CTCは2023年12月に伊藤忠商事による株式公開買付けにより上場を廃止。伊藤忠商事の完全子会社となった。また、2024年4月から、伊藤忠商事の情報・金融カンパニー プレジデントを務めていた新宮氏がCTCの社長に就任している。