ECコンサルティング大手のいつも.は、延べ1.3万社以上を支援してきたノウハウやデータを基に、コンサルタントとAIの力を掛け合わせた支援サービスの提供に力を入れている。「Amazon」や「楽天市場」の運用支援においては、同社独自の生成AI「いつもAI」を活用することで、ページ作りや広告運用、リサーチ、戦略策定の量や質を上げることができるという。AI活用以外にも、「Amazon」の大手パートナーとしてリピート顧客や潜在顧客に広告配信できるAMC(アマゾン・マーケティング・クラウド)を駆使した販促支援にも強みを発揮している。SNSなどを活用した外部集客の実績も豊富だ。AI活用やマーケティング支援の最新状況について、取締役副社長で「いつも.AI室」の室長も務める望月智之氏に聞いた。
――AIを活用したEC支援の内容は?
2023年8月に、業務プロセスやサービスのAI化を目的とした「いつも.AI室」を設立した。「Amazon」や「楽天市場」の店舗支援では、当社独自の生成AI「いつもAI」を活用したEC支援を力入れており、すでにクライアントの支援にAIを活用している。
AIを活用した支援領域は広範囲にわたる。事業戦略や事業計画の策定から、広告やSEOなどのプロモーション、コンバージョンを上げるためのクリエーティブ、リピート促進のマーケティングまで、それぞれの領域でAIを活用している。
――具体的な支援内容は?
分かりやすいのはページ制作の領域だろう。今まではコンサルタントやデザイナーが商品に基づいてリサーチを行い、ページのプランニングを行っていた。それでも成果は上がっていたが、人力だけで多くの商品のページの改善を考えたり、制作したりするのは大変だった。
現在はページの課題抽出や改善点の提案において、業務の50~70%ぐらいをAIが補助している。AIが分析した内容を基に、コンサルタントがクライアントと会話しながら改善を実施している。
こうすることにより、ページ制作のプランニングだけでも最低4~5時間かかっていたものを、10分程で実現できるようになった。
1つの商品のサポートに時間がかかり、月に何十商品もコンサルするのは難しかったのが、AIを活用することにより、サポートできる範囲が飛躍的に広がっている。
――AIを活用したソリューションは数多くあるが、貴社の支援内容の強みは?
これまで1.3万社以上を支援してきた実績に基づく、売り上げアップのための知見やノウハウが強みだ。社内にメソッドと呼んでいる500項目くらいがある。クライアントの過去の広告のパフォーマンスやページのコンバージョン率などのデータも蓄積している。
そういったノウハウやデータを学習したAIをアシスタントとして活用することで、どんなコンサルタントでも高品質な支援サービスを提供できる体制を整えている。新人コンサルタントでも、経験豊富なコンサルタントのように支援できる。
――データがあることでどのように支援の精度を高めているのか?
例えばEC事業者が来期の戦略を立てる場合、データの裏付けなく経験と勘で目標を決めているケースが多い。当社であれば、クライアントの商材の市場規模や、カテゴリーでのシェア、広告のパフォーマンス、収益の見込みなど、AIを活用してデータを分析し、ファクトに基づいて精度高く分析できる。
この分析をこれまではコンサルタントが行ってきたのだが、とても時間がかかっていた。AIを活用することで、迅速に分析できるようになった。
この分析に基づき、「来期はシェアを8%から10%に高めましょう。そのために広告費は月100万円から150万円に増やしましょう。その場合、収益はこのくらい残ります」と具体的な提案ができる。
――マーケティング面でのAI活用の状況は?
検索から入ってくる顧客を増やすためには、広告かオーガニック(自然流入)を強化することが多い。いずれにせよ自社の商品がどういうキーワードを狙うべきか、そのキーワードは他社より勝ち得るキーワードなのか、などを分析して対策する必要がある。
ただ、キーワードは無限にあり、やみくもに分析してもきりがない。当社はキーワードごとのパフォーマンスのデータを蓄積しており、キーワードの検索ボリュームを予測できる。そしてAIを活用することで、」クライアントの商品と相性の良いキーワードを抽出することが可能だ。
注力するべきキーワードだけ分かっても意味がない。当社はそのキーワードに対して、売るための知見があり、それを生かして販売促進につなげる。
――「Amazon」のAMCを活用した支援とは?
「Amazon」は一部の大手パートナーにのみ広告運用のソリューション「AMC(アマゾン・マーケティング・クラウド)」を提供している。当社も「AMC」を活用したマーケティング支援を提供できる。
「Amazon」においても、ただ商品を並べて、広告を出すだけで売れるという時代は終わった。「AMC」を活用すれば、過去に購入履歴のある顧客に再購入を促したり、休眠顧客にアプローチしたりすることができる。リピート性のある食品や健康食品、化粧品などでは特に効果を発揮できる。
リピート顧客だけではなく、潜在顧客にもアプローチできる。過去に同じような商品を購入したユーザーや、購入しなかったけどカートに入れたユーザー、閲覧した履歴のあるユーザーなどにディスプレイ広告を表示し、自社の商品の認知向上や購入促進につなげることも可能だ。
「AMC」を活用しているクライアントでは、かなり実績が出ている。
――SNSを活用した集客支援の内容は?
インスタグラムやYouTubeなどECモールの外から集客するサポートも手がけている。大型セールの前に外部から集客し、セール時の順位やパフォーマンスをブーストさせるケースが多い。外部集客はモール内の施策よりもパフォーマンスが落ちるので、平常時は外部集客を止めるなど、タイミングを見計らって取り組んでいる。
――今後、支援サービスでさらに注力する取り組みは?
今後は、AIをうまく活用できる会社のみが勝っていけると考えている。EC運営はかなり労働集約的な面があり、この課題をAIで解消できるかが生命線となる。
単純作業を楽にするというよりは、売り上げを伸ばすための有効な業務にAIを駆使できるように、さらに支援領域を広げていきたい。