アドビは10月30日、10月のデジタル月間に合わせて、ペーパーレスを促進するPDFの便利な機能を紹介するプレスイベントを開催した。
ビジネスに不可欠なフォーマットであるPDFを核とした文書業務管理のクラウドサービスである「Adobe Acrobat」には30以上の機能があり、中には便利であるにもかかわらず使われていない機能もあるという。
今回のイベントは、それらの機能をより多くの人に知ってもらうことを目的に行われたもので、これまでにPDFファイルを閲覧したり使用したりしたことがある550人を対象に行われた「PDFの機能に関する認知度調査」の結果が発表された。
イベントにはアドビ マーケティング本部 ライフサイクルマーケティング部 シニアマーケティングマネージャーの岸本奈央子氏、アドビ公式インストラクターの大倉壽子氏が登壇した。
PDF開発の目的は「紙以上のものをデジタルで作ること」
はじめに岸本氏は、PDF開発の歴史として「PDF/Adobe Acrobatの設計思想」について明かした。同氏は「PDFは紙以上のものをデジタルで作ることが目的だった」だと説明した。
「アドビの創業者であるジョン・ワーノックとチャールズ・ゲシキは、『デバイスに依存せずに文書を読める環境を実現する』ことを目的としてPDFを開発しました。そして、『紙文書でのワークフローでできることは当たり前にでき、さらにデジタルにすることで、それ以上の価値を提供する』というビジョンのもと、ビジネスコミュニケーションツールとしての役割を担うことを目指していました」(岸本氏)
このような背景を元に開発されたPDFは、初期の段階から現代のビジネス環境でも重要視される機能を実装。その後は、さまざまなニーズに対応するため、3DモデルのPDF変換・編集、地図情報の表示など特定分野で役立つ機能も追加している。
また、岸本氏はPDFフォーマットの特徴として、5つの「紙では得られないデジタルならではの利便性」を挙げた。
「PDFフォーマットは『元の体裁を維持する』『さまざまな環境で閲覧でき、共有性が⾼い』『ファイル容量が⼩さい』『検索ができる』『セキュリティを設定できる』という紙では得られないデジタルならではの利便性として5つの特徴が挙げられます」(岸本氏)
「PDFの機能に関する認知度調査」の結果
続いて岸本氏は、便利な機能の認知度向上を目的として実施された「PDFの機能に関する認知度調査」の結果を発表した。
今回の調査は、PDFを閲覧・使用したことがある550人を対象に「次に挙げる機能でPDFでできると思うものを選んでください」といった内容をクイズ形式で実施した。クイズの平均正答率は19.8%で、全問正解者は出ない結果になったという。
あまり知られていないPDFの機能について正答率が高い(比較的知られている)順にランキングすると、以下の通りとなっている。
10位:PDFの中にMicrosoft WordやExcelなどの複数のファイルを入れてひとつのファイルとして扱うことができる(27.6%)
9位:白紙のPDFは作成できる(25.3%)
8位:インターネット接続がなくても動画を埋め込んで再生できる(24.5%)
7位:印刷会社でデータ入稿時に主に用いられている PDFの規格はPDF/X(21.3%)
6位:PDF内で指定のフォントを使っていないとアラートを出すように設定することができる(20%)
5位:PDFでQRコードを生成することはできない(19.5%)
4位:PDFで地図情報(緯度と経度)を表示したり、画像や面積を測ることができる(18.7%)
3位:無償のアプリでPDFにコメントを付けることができる(17.8%)
2位:PDFの機密情報を削除する墨消し(13.6%)
1位:タブレットやスマートフォン用アプリを使えばPDFを編集することができる(9.6%)
Adobe Acrobatの便利な機能
Adobe Acrobatには、無償の「Acrobat Reader」と有償の「Acrobat Pro」がある。大倉氏は、「これを知っていればあなたもPDFツウ」として、Acrobat ReaderとAcrobat Proの便利な機能を3つずつ紹介した。
Acrobat Readerの無償機能編
モバイルスキャンアプリ「Adobe Scan」 Adobe Scanは、自動テキスト認識と Adobe Sensei の人工知能を使用して、モバイルデバイスでキャプチャした画像を検索可能なPDFに変換する。レシートや名刺をPDFに変換して、編集や署名を行うことができる。紙文書のスキャン時に黒ずみなどの不要な要素を自動的に削除するほか、OCR(光学式文字認識 )機能により文書の文字検索ができるようになる。
入力と署名 PDFにフォームフィールドが設定されていなくても申込書などにテキストや署名を入力可能にする機能。印刷や郵送する必要がなく、タブレットやスマートフォンからもアクセスできるため、いつでもどこでも編集や署名が可能になる。
Adobe Acrobat Readerのコメント追加 Adobe AcrobatでPDFを共有すればオンライン上で複数の人が文書のレビューを同時に実施することができる。レビュー依頼を受ける側は、有償版/無償版いずれのAdobe Acrobatのユーザーでもコメントを追加することが可能。
Acrobat Proの有償機能編
PDF内の機密情報を削除する「墨消しツール」 PDF内の機密情報を隠すことができ、文字検索などによる情報の抽出を防ぐ。PDFを配布する前に「非表示情報を完全に削除」機能を使用して、非表示になっているコンテンツをPDFから検索し、「墨消しツール」でテキストやグラフィックを完全に削除できる。
さまざまな形式のファイルをPDFでひとつにまとめる「PDFポートフォリオ」 PDF、Word、Excel、Photoshop、Illustrator、動画など、さまざまな形式のファイルをPDFで1つにまとめることができる。提案書の提出時など複数のフォーマットでデータを用意する際に、ポートフォリオ機能により、データを一元管理して関係者に共有することができる。
PDFの定番作業をワンクリックで実行する「ガイド付きアクションを使用」 PDFファイルにパスワードを設定する、透かしを入れるなど同じ作業を繰り返し実行する場合、一連のコマンドを設定すれば、指定した順序でワンクリックで実行することができる。毎月の見積書の送付などの際に作業を効率化することができる機能。
デジタル化の真意は「情報をデジタルにすること」
イベントの結びとして大倉氏は以下のように述べた。
「『デジタル化』と一言でいってもそれは単に、これまでのやり方や紙媒体をデジタルに置き換えることだけを意味しません。情報をデジタルにするからこそのメリットがあり、そのメリットを最大限活用し、これまではできなかったことを実現することで社会を進化させていく、それが広い意味でのデジタル化ということになると思います。デジタル月間にちなんで、単純に紙をデジタルにする、ということだけでなく、デジタル化することで私たちが意識を変えなければならないところ、あるいはメリットをどう最大限利用するかを考えるきっかけにできればと思います」(大倉氏)
同社のwebサイトでは、Adobe Acrobatのチュートリアルや使い方の動画、ブログなどを通じて機能に加えて使い方を紹介するさまざまな情報を提供している。今後もこのようなコンテンツと製品開発を通じて、顧客のデジタル活動を支援していきたい考え。