あくまでも〝品質ありき〟で
「物価上昇は多少落ち着いてきているが、高止まりしている。コンビニエンスストア、あるいは、セブン‐イレブンは割高だと感じている方が多く、コンビニは高いというイメージを払拭しなければならない」
こう語るのは、セブン‐イレブン・ジャパン常務で商品戦略本部長の青山誠一氏。
セブン-イレブン・ジャパン社長・永松文彦「地域や社会に無くてはならない店づくりを!」
昨今の物価上昇に伴う消費者の節約志向に対応するため、セブン‐イレブンがお手頃価格商品『うれしい値!』の品揃えを増やしている。8月末時点で約20だったアイテム数を、9月末までに合計270アイテムに拡大する方針だ。
同社の調査によると、一般消費者1万人を対象にしたアンケートの結果、63.9%がコンビニは割高だと回答。しかも、セブン‐イレブンに対するイメージも年々、割高に感じる人の割合が増加。この2年で約4%増加した。
同社では近年、商品の価格帯を「松・竹・梅」で分類している。明確に値段で区切っているわけではないが、ざっくり言って、お弁当なら400円以下の商品が「梅」、550円くらいまでが「竹」、600円以上が「松」という塩梅。この下期は、消費者の節約志向の高まりに対応するため、中価格帯「竹」の強化を続けながら、低価格商品「梅」の構成を増やすという。
「味や美味しさは維持しながら、お求めやすい価格で提供できないかということで、1年前は松・竹・梅も3対4対3ぐらいの割合で考えていたが、今はもう少し梅を増やし、2対4対4くらいにしようと。やはり、商品を選ぶ選択肢の一つに価格を考える方が増えている」(青山氏)
例えば、同社では9月から、『五目炒飯』『麻婆丼』『バターチキンカレー』のチルド弁当3種をリニューアル。従来商品より50円近く価格を安くし、税抜323円で販売している。
製造工程の機械化や製造工場の集約による生産性向上によって、低価格化を実現。まだ販売から1週間だが、30代以下の若年層の販売が好調。販売数量は前年比約10%増、販売金額も約3%増加した。
他にも、7月から『手巻おにぎり ツナマヨネーズ』を148円の販売価格を128円(いずれも税抜)にするなどしたところ、おにぎり全体の販売数や販売金額が発売前と比較して1割以上伸びた。
今後は、トイレットペーパーや洗剤など、グループのイトーヨーカ堂で販売している低価格PB(プライベートブランド=自主企画)商品『セブン・ザ・プライス』や100円ショップ『ダイソー』商品の取り扱いを増やし、雑貨・日用品でもお手頃価格の商品を拡充する。
セブン‐イレブンは国内既存店の客数が6月から8月まで、3カ月連続で前年割れ。新たな価格戦略を打ち出すことで、来店客増につなげたい考え。
これまで同社は高付加価値の商品づくりで成長してきた。その代表例が、2007年から販売を開始したPB商品『セブンプレミアム』。お手頃価格で高品質なモノづくりがコンセプトで消費者の支持を拡大。その後、高級志向の『セブンプレミアム ゴールド』なども追加し、23年度の売上はグループ全体で1兆4500億円。24年度は1兆5千億円を超える見通しだ。
それがここへ来ての低価格商品の拡充。同社は従来の戦略を転換するということなのか?
青山氏は「価格が安い商品を品揃えするという政策ではない。当社は品質を重視し、今まで成長してきた。しかし、経済性を重視するお客様が年々増えているため、確かな品質をお求めやすい価格で対応するということ」と指摘。あくまでも〝品質ありき〟の商品開発を強調する。
味・品質と同じレベルで今は経済性を重視している
今年6月、7月と、実質賃金が2カ月連続で前年を上回ったとはいえ、それまでは26カ月連続で前年割れ。やはり、消費者の財布の紐はまだまだ固い。
10月からは郵便代が約3割値上げする他、NB(ナショナルブランド)を中心に約3千品目の飲料・食品が値上げする予定。このため、「お客様の価格に対する意識はより敏感になることが予想される」(イオン)。
リクルートの調査によると、最近の物価高で節約志向が高まった人は46.1%。節約方法として、外食の回数を減らすと答えた人が77.3%に上る。その受け皿として成長してきたのが流通各社のPBである。
イオンは9月18日から、全国約1万店舗でPB『トップバリュ』19品目を値下げ。カップ麺やペットボトル飲料などが中心で、24年度に値下げした商品は累計で79品目となる。
また、ファミリーマートは8月から期間限定で、お弁当やフライドチキンなどを40%増量するキャンペーンを実施。ローソンも6月から同様に商品を47%増量するキャンペーンを実施。いずれも値段は据え置きであり、実質的な値下げである。
そうした流れの中での、セブンの『うれしい値!』戦略。
「これまで当社は味・品質を最優先に商品開発に取り組んできた。今はお客様が味・品質と同じレベルで経済性を重視してきているので、両立しなければならない。難しいことだが、逆に両立できれば、一段とセブン‐イレブンが強くなれるのではないか」と語る青山氏。
マクロで考えれば、物価上昇分を価格へ転嫁し、それを原資に賃上げして、真のデフレ脱却を図るという好循環につなげたいところだが、いち消費者にとっては値下げは有難い。
理想と現実の狭間で、いかに価格を設定するか。流通各社の悩みは尽きない。