カートシステムの導入や運用には費用が必要である。MA(マーケティングオートメーション)やCRMのシステムも然りだ。
ユーザー企業がEC事業を行う場合、そのようなITコスト(ここで言うITコストには減価償却分も含む)は不可避である。どのような事業でも利益の最大化のためにはコストコントロールが鍵となる。
IT製品は安価なものとは限らない。どのIT製品が自社にとって最適なのか費用対効果を見極めていることと思う。
そこでITコストが経営にもたらす財務面の重さについて可視化してみたい。グラフの通り小売業の売上高営業利益率(以降利益率)は概ね2.5~3.0%の範囲で推移している。
製造業は4~6%、サービス業や不動産業はさらに高い値だ。つまり小売業は他業種より利益率が低い。利益率が低いとITを含む何らかのコストが急激にかさんだ場合、その金額次第で経営が揺らぎやすくなる。当然ユーザー企業は敏感にならざるを得ない。
ではITコストは実際にはどれくらいだろうか。筆者の推定では売上高ITコスト比率(以降ITコスト率)は製造業、小売業、不動産業は共に1.0~1.5%と見る。またサービス業はもう少し高く2.0%あたりと予想する。
仮に小売企業があるタイミングで大型のIT投資を行ったとしよう。ITコストが3%になった途端、利益が吹っ飛んでしまう。小売業以外でも同レベルのIT投資を行った場合、利益率を押し下げてしまう計算になる。
<2段階ステップが得策>
そう考えるとITコストのかけ方にはポリシーが重要と考える。小売業のように利益率とITコスト率の差が小さい場合はなおさらだ。
よくあるケースとして売上拡大に直結する点をうたい文句としたIT製品がある。もちろんうまく行けば問題ないが、ユーザー企業から見て果たして、そのIT製品が売り上げに直結するのかどうか判断が難しい場合も多いだろう。もし効果を得られなければ単なるコスト増となり財務を圧迫する事態になりかねない。
理想はIT導入によって全社的なコスト削減を行いつつ、同時に売上拡大にも貢献するという両面を実現することだろう。しかし、そううまくいくケースは多くない。
筆者なりの考えは、まずIT導入によって人件費削減や業務効率化など全社的なコスト削減にフォーカスするのが得策と見る。その後、コスト削減で得た資金を元手に攻めのIT投資を行うという2段階ステップでの戦略だ。そうすればユーザー企業は財務面で安心感を覚えるだろう。
平均すると長年、日本企業の売上高は横ばいか微増である。つまり利益額の絶対値は増えていない。
おそらく今後もその流れに大きな変化はないだろう。したがってITコストはユーザー企業にとってセンシティブなテーマであり続けるということだ。
2段階ステップでのアプローチはあくまでも一例だが、ユーザー企業は利益率とITコスト率の差分を常に意識しているということを念頭に置いて、ベンダーは効果的な提案を行うとよいのではと思う。