『nicoせっけん』創業者が年商20億円への舞台裏を書籍化 山口社長「厄介者だからできた」

「nicoせっけん」などの通販ブランドを展開し、グループで年商約20億円を売り上げるエレファントの山口武社長が9月25日、初の著書「どこにも居場所のなかった僕が見つけた 『じぶんごと通販』の起業戦略」を発行した。エリートコースからドロップアウトし、自分は組織や社会の「厄介者」ではないかと疎外感に苛まれた山口氏は、顧客とダイレクトにつながることができる通販ビジネスと出会い、水を得た魚のように活躍する。ただ、通販業界には「儲け主義に走る人」「目先のノウハウを欲しがる人」が多いことも分かった。山口氏は独立し、「嘘」「モノマネ」ではない方法でもブランドを成長させることができると証明している。そんな山口氏が、自分と同じように組織から「厄介者」だと思われている人や、本質的なビジネスに挑戦したい人に向け、通販業界への招待状として、この書籍を刊行した。書籍には、山口氏が通販業界に入るまでの経歴や自社ブランドを急成長させた舞台裏、実践的に使える通販ビジネスの本質的なノウハウも記している。書籍を通して、自分と共感する仲間や取引先も増やしたいと考える山口氏に、書籍刊行に至る経緯や、通販業界への思いについて聞いた。

――エレファントはどんな会社なのか?

エレファントはもともと、通販コンサルの会社として立ち上げた。今では敏感肌の子ども向けのオーガニックスキンケア「nico」など複数のブランドを展開している。2024年7月期のグループ売上高は、約20億円となった。

コンサルをした企業の中には、他社の実績や売れ筋の商品を真似した商品を求める企業も多かった。他の会社が同じような商品を販売しているのに、同じような商品を作る必要があるのか、という疑問を感じていた。

いつか自社オリジナルの商品を展開したいと考えていた。そんな中、自分の子どもがアトピーだと診断された。市販のせっけんをいろいろ試したが、良いものが見つからず、妻とどうしたらいいか悩んでいた。同じような悩みを持つ親がいるのであれば、この悩みを解消する商品を作れないかと考え、敏感肌向けのオーガニックせっけん「nicoせっけん」を開発した。

――書籍を発行しようと考えたきっかけは?

自社のブランドを展開する上で、自分たちと共感する人を集めるためにどうしたらいいか考えていた。スタッフも少しずつ増えてきて、どんな会社か、どんなバックボーンがあって今の事業をしているのか、といったことを、どう伝えていくのがいいのかを考えていた。

会社のことや自分のこと、考え方を伝えるには、書籍が一番いいと思った。書籍を読んでどんな会社か知ってもらった上で応募してもらえば、会社に合う人が入ってくる。入社した人に書籍を読んでもらえば、考え方を共有できる。

当社の現状の事業規模だと、社員教育はOJT(オンザジョブトレーニング)になる。マニュアルも用意しているが、マニュアルは無機質なものなので、どうして当社がそういう考えに至っているのかまでは分からない。背景が分からず、仕事が作業になってしまうのは嫌だなと思っていた。

自社のために書籍を活用したいという考えもありつつ、目先のノウハウや儲け話を求めがちな通販業界に一石投じたいという思いもあった。

▲ダイヤモンド社から書籍を刊行。Amazonや大手書店で販売している

――通販業界に届けたい思いとは?

長期的に愛用される商品やサービスを通販で届けたいと思えば、向かっていく先は「いい商品を追求する」「顧客ときちんとコミュニケーションをとる」という方向性になるはずだ。

少し前のアフィリエイト全盛期は楽に儲けている事業者もあったかもしれないが、今ではそういうやり方は通用しなくなっているし、消費者とのコミュニケーションがきちんとしている会社じゃないと立ち行かない。

もともと本質的なビジネスだと思うし、よりまともな業界になってきている。そういう業界だということを、書籍でも伝えたい。

――山口氏はどのような経験を経て、通販業界に入ってきたのか?

自分でいうのもなんだが、学生時代は勉強や部活動などをがんばってきた。大学受験もがんばり、慶応義塾大学に入学し、就職氷河期の中で大変な思いをしながら、憧れや夢を持ちながら大手食品メーカーに就職することができた。

誰もが知る大企業に入社し、そこにはもっと素敵な日常があると思っていた。しかし、そんなこともなく、これが現実なのかと感じた。

今思えば、大きな組織の中で若手社員の自分がどう貢献しているか見えないことや、社会とどうつながっているか分からないことは、当たり前のことだと理解できる。

しかし、当時の自分はそれを受け入れられず、もともと空気を読まずに自分の意見を言ってしまう自分は、「厄介者」なのかなと感じるようなり、入社5カ月で会社を辞めてしまった。

そこからアルバイトをしながら、世の中に対して感じてきた違和感や、それを誰とも共有できず疎外感だけを募らせてきた自分自身の内面を表現したいと思い、小説家を志した。

しかし、その志は、急遽、実家への仕送りが必要になったことで打ち切られた。何が何でも仕事を探してお金を稼がねばならない事態となり、再就職して社会復帰することになった。

広告代理店での経験を経て、インターネットの普及で脚光を浴びていた通販業界に飛び込んだ。ダイレクトに結果の出るビジネスである点に興味を引かれた。

自分と同じように組織になじめず、疎外感を持つ人は意外と多いと思う。そういう人には通販ビジネスは向いていると思う。

――どうして山口氏と同じように自分は「厄介者」だと感じる人に”通販”が向いていると思うのか。

自分の意見をストレートに言ってしまったり、組織の一方的な理屈に納得できないような人は、「厄介者」とみなされることがある。

そういう人はそのまま組織にいても生かされないことが多い。しかし、そういう人にこそ通販が合っていると思う。

通販がダイレクトに顧客とつながるビジネスだからこそ、まじめだけど、くすぶりかねない人にはいいビジネスだと思う。そういう人が通販で活躍してほしいし、そういう人が仲間になってくれればうれしい。

独立を志す人にも、通販は向いていると思う。もちろん立ち上げは楽ではないが、飲食店を開設するほどコストはかからない。

――今後のビジネスの展望は?

書籍を出す前は、通販コンサルの事業は縮小し、自社ブランドのみを手がけていこうと考えていた。自社ブランドも広げずに、今あるブランドの売り上げを伸ばすことだけを考えると、人もそんなに増やさなくてもいい。

しかし、自分たちだけで売り上げを伸ばし、儲けを膨らますことができたとしても、ぜんぜん楽しくないなと思った。

自分は学生時代からサッカーをやってきて、チームプレーで勝利することに喜びを感じてきた。それが、いつのまにか陸上競技をやっているような、個人プレーになっていることに気付いた。

今でも自分たちで立ち上げたブランドを展開する以外に、自分でブランドを立ち上げたいというメンバーを仲間に入れ、今ではそのメンバーがブランドを立ち上げ、起業している。

通販コンサルにも、また力を入れたいと思っている。自分たちだけでは、100商品に関わることは難しいが、コンサルなら100商品関わることができる。社会との関わりという観点でみれば、自社ブランドだけをやるよりも広がりがある。

コンサルを希望する企業にも書籍を読んでもらえれば、うちがどんな会社なのか分かってもらえる。共感してもらった上で、一緒にビジネスができれば、お互いにとっていいだろう。

通販コンサルを本気でやろうと思うと、人材をもっと増やさないといけなくなると思う。書籍を読んで、共感してくれた人が仲間に加わってくれれば、うれしい。