【海外ECモール 諸国漫遊】「SHEIN」と「Temu」、成功の陰に潜む問題点

2024年7月に「Pontaポイント」と連携したことで話題の「Temu(テム)」、日本のファッション系インフルエンサーも取り上げている「SHEIN(シーイン)」。激安を武器に、中国発のECが猛烈な勢いで勢力を伸ばしています。

「Temu」の取り扱い商品は非常に幅広く、ファッション、日用品、デジタル機器などさまざまです。安さに特化した中国のECサイト「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」を運営するPDDホールディングスが、中国国外向けアプリとして米国でリリースしました。

一方、「SHEIN」はファッション・アパレル商品をメインに取り扱い、衣料品、アクセサリーやバッグなどトレンドアイテムを多く取りそろえています。購買層はミレニアル世代とZ世代が中心となっており、「Temu」が男女半々のユーザー比率に対して、「SHEIN」は女性がメーンです。

2つのECの共通点は、中国の実業家が立ち上げたことと、低価格商品を武器に世界へ販売していることです。成長目覚ましい両者ですが、ともにさまざまな問題点を抱えていることも特徴です。

<圧倒的なGMV>

「Temu」は2022年9月に米国でサービスを開始後、2年にも満たない期間でSNSやネット広告の露出により急速に認知度を上げました。2023年のGMV(流通額)は180億ドル(約2兆8000億円)、現在は毎月1億5200万人弱の利用者がいるとされています。

またブルームバーグが今年4月に米国の消費者1000人を対象に行った調査によると、少なくとも月1回は「Temu」から購入すると回答した人は、全体の34%でした。これは「eBay」の29%を上回り、わずか2年弱の間に米国の大手ECへ迫る勢いを裏付けています。

「SHEIN」はシンガポールに本社を置き、米国、ブラジル、カナダ、欧州、オーストラリア、中東、アジア(中国を除く)など世界150カ国以上へ展開しています。こちらも「Temu」と同じく、多くの売り上げを占めるのは米国市場です。公式な発表ではありませんが、2023年のユーザー数は2億5000万人、GMVは300億米ドルに達していると報道されています。

<問題点も浮き彫りに>

「Temu」「SHEIN」の勢力拡大の要因は、取り扱い商品の安さです。ただこの商品も、決して健全な製造過程を経たものばかりではないことが知られ始めています。品質やサイズにバラつき、サンプルとして掲載されている写真と届いた実物が異なるなどの問題点が指摘されています。

「SHEIN」の安価なアパレル製品には、製造過程における労働環境の劣悪さや不当な労働条件化での大量生産などが英国BBCにより報じられました。また、「Temu」と同じ運営元である「拼多多」のアプリは、米国安全保障委員会にアプリ内のマルウェアを指摘され、一時的に「Google PlayStore」から削除される騒ぎも起きています。

EUでは今年6月、違法・有害コンテンツに関して寄せられた消費者団体からの苦情により、両ECともデジタルサービス法(DSA)の規制対象となっています。規制対象となったECはコンプライアンス対応が義務付けられ、違反した場合には制裁金や最悪EU域内でのサービスが禁止されるという厳しい処置が課せられます。

さまざまな問題を抱えつつ勢いを失わない両者対して、危機感を抱くEC事業者も少なくありません。中国アリババ傘下の「淘宝網(タオバオ)」は、衣料品を海外へ発送する場合の送料を無料にするサービスを発表しました。「Amazon」では、価格を抑えたノーブランド商品を中国から米国へ向けて販売する計画もあり、製造小売ECによる価格戦争が今後さらに激化する可能性があります。

しかしながら、購入者も安ければ他は目を瞑るというわけではありません。日本でも「SHEIN」で販売されていた浮き輪から基準値の218.5倍、ビーチボールからは基準値の148倍の発がん性物質が検出されたとの報道がありました。これを受けて、日本の同じカテゴリーの商品を扱う企業や組合から、日本の玩具安全基準についての声明が発表されました。

国内で販売される商品にはこうした安全基準をクリアして販売されている実績があり、海外へ販売する際にも強みとなります。低価格の土俵に上がるのではなく、国内の安全基準をクリアした質の良い製品であることをいかにアピールしていくかが重要です。商品の背景にある歴史や経緯を商品の価値として周知し、納得させられるものであるかどうか、それが今後の海外販売の鍵となるでしょう。

※「海外ECモール 諸国漫遊」は「日本ネット経済新聞」の紙面で連載しています。新聞を購読していただければ、過去のバックナンバーもデジタル版で閲覧できます。