ソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOは10月3日、法人向けのイベント「SoftBank World 2024」の基調講演に登壇し、「AI活用は企業の競争力に直結する。これまで経営資源と言われていたヒト・モノ・カネ、ここにAIが加わる。経営者が新たな経営資源を味方につけることができるのかが、企業の明暗を分けるだろう」と強調した。

  • ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏

    ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏

宮川社長「日本は周回遅れのAI後進国」

宮川氏は、生成AI活用に消極的な日本の現状について危機感を募らせる。

米Microsoftの調査によると、先進国31の国・地域におけるビジネスでのAI活用率は、世界平均で75%と半年前の平均40%からほぼ倍増した。一方で、日本は32%と周回遅れのままだ。

「日本はAI後進国と言えるだろう。なぜそんな状況になっているのか。『われわれとAIとの向き合い方』に問題があると考えている。業務効率化のためだけでなく、競争力強化につなげるために生成AIを活用すべきだ」(宮川氏)

  • 生成AIの活用率(ビジネス)

    生成AIの活用率(ビジネス)

ボストンコンサルティンググループの調査によると、日本は世界で唯一生成AIの活用に消極的だという。他国に比べ自社のAI活用に慎重な企業が多く、生成AIが競争力強化に不可欠と考える管理職層の割合も日本は最低クラスだ。宮川氏は「日本ではAIに不安を感じている人が多い」と指摘する。

日本企業が生成AIに消極的な理由として「必要性を感じない」「使い方・利便性に不安がある」といった声がある。宮川氏は「2008年にiPhoneが日本に導入された際も、同じような理由でスマートフォンの使用に抵抗がある人が多かった。そこから16年たった今、スマホに消極的な人はいるだろうか。多くの人にとってなくてはならない存在になったはずだ」とし、「好む・好まざるに関わらず、AI時代は必ずやってくる。日本の企業はAIへの取り組み方を間違ってはいけない」と断言した。

  • 生成AIに消極的な理由(2024年)・スマホに消極的な理由(2008年)

    生成AIに消極的な理由(2024年)・スマホに消極的な理由(2008年)

日本ではAIを「単なる業務効率を上げるツール」だと認識している企業が多いが、世界の先進的企業はAIを「競争力を強化する武器」だと捉えているという。「このAIに対する捉え方の違いが活用率の差を生んでいる」と宮川氏は説明した。

AIは仕事を奪うのか、創りだすのか

AIは仕事を奪う存在なのか、それとも仕事を創りだす存在なのか。

その問いに対して宮川氏は「AIの進化に乗り遅れる企業は仕事を奪われ、AIの進化をチャンスととらえる企業は仕事を創り出すだろう。モバイル端末やITインフラなど、日本の企業はこれまでも世界の企業に市場を奪われてきた」と答えた。また、「このまま労働人口が減り続け、労働者1人当たりの生産性が変わらなければ、2040年にはGDP(国内総生産)が現在よりも110兆円減少してしまう」と警鐘を鳴らす。

  • モバイル端末(国内市場シェア)

    モバイル端末(国内市場シェア)

  • ITインフラ(国内市場シェア)

    ITインフラ(国内市場シェア)

そのうえで、「生成AIを武器として新たな価値を創出し生産性を2倍にできれば、日本のGDPは2024年に1000兆円になる。AIを上手く活用することで、個の能力を拡張して新たな業務をするチャンスが生まれる。AIを単なる業務効率化の道具と捉えていてはだめだ。AIの進化に足踏みをせず、積極的に取り込んで改革していけるかどうかが重要だろう」と述べた。

  • 宮川潤一氏

    宮川潤一氏