「双日らしい成長ストーリーの実現を」双日新社長・植村幸祐が語る『カタマリ戦略』

双日らしさとは何か?

「いろいろな制約を受けながらの20年。前半は苦労や制約の多い10年で、後半の10年はコロナ禍で一時落ち込んだ時期もあったが、何とか創意工夫を加えながら収益力がついてきた。まだまだ若い会社なので、元気の良さを前面に出していきたい」

 こう語るのは、4月から双日の新社長COO(最高執行責任者)へ就任した植村幸祐氏。

 ニチメンと日商岩井が合併し、今年で20年の節目を迎えた双日。日商岩井が過剰債務を抱えていたため、発足当初は統合作業や財務体質の改善に翻弄された。しかし、近年は再建モードを脱し、稼ぐ力を拡大。自動車販売や航空機リース、リテール(小売り)などの事業を強化し、2期連続で当期利益が1千億円を超える会社へ成長した。

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 今年度からは、新たな中期経営計画がスタート。ヘルスケアなどのエッセンシャルインフラ、食糧バリューチェーン、エネルギー・素材の3つを強化領域とし、そこにDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を掛け合わせていく考え。26年度までの3年間で6千億円の成長投資を実行する。

 今回の中計のキーワードは『「双日らしい成長ストーリー」の実現』。では、双日らしさとは何なのか?

 植村氏は、らしさを一言で表すのは難しいとした上で、「いくつか点在している事業を線にし、面にしていこうと。例えば、機械を売るだけでなく、機械を使った事業を創出したり、周辺事業をつないで、バリューチェーンをつないでいくとか、自分たちの競争優位性や独自性のある分野で、多数の事業の点をカタマリ(塊)にしていく」と語る。

 その代表例にしたいのが、すでに知見やネットワークを持つベトナム。

 同社とベトナムとの歴史は長い。日商岩井時代だった1986年に、総合商社として初めてハノイ駐在事務所を開設。石油の開発と石炭買い付けで始まった関係は現在、日本のコンビニエンスストア『ミニストップ』を含めた小売りや卸売り、物流など、さまざまな事業を展開。これら個々の事業に横串を刺すことで、より強みを持った事業群にしようと考えている。

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「塊を大きくするため成長市場へ張っていく。それこそ点から線に、線から面にということで、形が整ったのはベトナムかなと。この数年、物流事業の拡大や卸の会社を買収し、食料や小売り関係を強化してきた。仕入れ能力も高まり、いろいろなコントロールがきくようになるし、最近は牛肉の畜産も始めている。輸入だけではなく、国内で生産して、国内に流通させていきながら、お客さんを囲い込んで、規模を高めていく」(植村氏)

 ベトナムの次に見据えるのはインドを含めたアジア。世界一の人口を抱え、今後の経済成長が期待されるインドは、鉄道のインフラ整備や冷凍の物流網(コールドチェーン)整備がまだまだ不十分。そのため、植村氏もビジネスチャンスは大きいと考えており、ベトナムでカタマリ(塊)戦略の成功事例をつくり、それを他の国々に拡大していこうと考えているようだ。

 そうした取り組みを進めることで、2030年ごろに、当期利益2千億円、ROE(自己資本利益率)15%、時価総額2兆円を目指す。企業価値を現状の2倍にする野心的な計画だ。

「2倍という目標を掲げたからには、ビジネスの中身を変え、一件あたりのサイズを変えていかないといけない。成長期待をマーケットに持ってもらうため、実績で示していく。今、PER(株価収益率)は7倍くらいだが、9倍後半にもっていきたい」(植村氏)

お伺い営業ではなく顧客に刺さる提案型営業を!

 植村氏は1968年兵庫県生まれの56歳。93年東京大学農学部卒業後、日商岩井(現双日)へ入社。エネルギー畑を歩み、米ヒューストンやニューヨークなど、海外駐在も長かった。その後、化学部門へ転身し、昨年から経営企画担当本部長として、今回の中計の策定に携わった。

 自身のモットーは、「お伺い営業ではダメ、顧客に刺さる提案営業をしなければいけない」。日本綿花、岩井商店・鈴木商店を源流とする双日には、もともと〝先読み・変革・挑戦〟という伝統があり、今、社内では「自律的に考える癖をつけよう」と呼び掛けているそうだ。

 資源高や円安などの経営環境を追い風に、業績好調が続く総合商社。双日も今期(2025年3月期)の当期利益は1100億円の見通し。首位の三菱商事(9500億円)や三井物産(9千億円)に比べると、まだまだだが、着実に収益力を向上させてきた。

 一時は「冬の時代」などと言われながらも、時代の変化にあわせてビジネスモデルを変化させることで、荒波を生き抜いてきた総合商社。今後の商社の役割とは何か?

「今は1社でできることは限られている。だから、コーディネーターというと軽くなってしまうが、事業の一番中心にありながら、必要なパートナーを連れてきて、自分たちが持っているノウハウや強みを生かしながら、事業を成立させるというのが今後の商社の役割だろう。大事なのは事業の真ん中にいること。当社は若く小回りが利く会社。商社は人が中心であり、明るく元気に働くことのできる会社にしたい」と語る植村氏。

〝双日らしさ〟をいかに具現化し、新たな時代のビジネスモデルをどうつくっていくか。植村氏の挑戦は始まったばかりだ。

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