ウミウシに擬態する新種のゴカイ「ケショウシリス」を名古屋大学大学院などの研究グループが発見した。発見場所は三重、和歌山各県と、ベトナムの海域。サンゴの仲間である「ウミトサカ」に共生しているが、なじむような柄ではなく、むしろ目立つ色や形をしていた。同じ海域に住み毒を持つミノウミウシに似せて外敵から身を守ることが考えられるという。今後、ケショウシリスの生態や擬態の詳しい理由について研究を続ける。

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    左が今回見つかったケショウシリス。右はウミウシ(名古屋大学提供)

名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見直人講師(無脊椎動物系統分類学)の研究グループは、サンゴに生息するゴカイについて研究をしてきた。最初は、三重県鳥羽市にある菅島の漁師から、ウミトサカに「ウミウシのような生き物が付いている」と連絡を受け、譲り受けた。和歌山でもダイビング中のダイバーが見つけた。また、同じ生物をマレーシア、ロシア、フランスの共同研究チームがベトナム海域でダイビング中に発見したとの報告を受けた。見つかった個体はいずれも水深20~40メートルの温帯の海域にいた。

三重と和歌山での個体は標本にすることができたので、2個体を今回の研究に使った。なお、和歌山の海域では多数の個体が生息していることをダイバーが確認している。

共同研究者らはウミウシと考え採集したが、自見講師は「多毛類」と呼ばれる生物と考え、おのおので研究を続けた結果、ゴカイの一種であることが分かった。自見講師は、採集地周辺に生息するミノウミウシと似ていることから、ウミウシに擬態している生き物としてさらに詳しく調べることにした。

ミノウミウシには「ミノ」という大きな触手に毒をため込む性質があり、今回見つかった生き物にも同じように大きな触手があった。触手は大きなものと小さなものが交互に存在する点や、触手の先端が白く、少し離れたところは色が濃くなるところも似ていた。また足の毛の先が体内にしまわれているために、ミノウミウシと見た目もそっくりだった。

ウミウシは軟体動物で、イカやタコ、貝が代表例。一方、ゴカイは環形動物に属し、ミミズやヒルなどと同じ種類だが、足から毛が生えており、多毛類といわれる。今回見つかったウミウシのような生き物は、今まで知られているゴカイと異なる特徴をもつことから、自見講師らは新種のゴカイと判断した。そして、化粧のようにきれいなことと、姿を変える「化生」から、ケショウシリスと名付けた。シリスはシリス科のゴカイの総称だ。

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    ウミトサカと共生するケショウシリス。中心部にいる(DIVE KOOZA 上田直史さん提供、黄色の丸囲みは編集部挿入)

自見講師らはこのケショウシリスがどのような擬態であるのかを確かめることにした。毒を持つ生物への擬態には、ベイツ型擬態とミュラー型擬態の2種類がある。ベイツ型は自身には毒がないのに毒があるように見せかけて擬態する。一方、ミュラー型は毒がある生き物同士が似た模様に進化する擬態を示す。これらの擬態は環形動物では珍しいとされる。

ミノウミウシの毒があるミノと呼ばれる部分に良く似た「背触手」を調べた結果、毒はなかった。ただ、ケショウシリスは標本にできたものが2個体しかなく、毒がないと断定することはできないという。

自見講師は「今後、より多くの個体が見つかれば毒の有無を正確に把握できる。(ベイツ型・ミュラー型)どちらによって擬態に成功したのか、また、なぜ毒を持つミノウミウシと擬態するに至ったのか、進化の過程について研究を進め、ケショウシリスがどのような生態なのか、解明していきたい」としている。

研究は昭和聖徳記念財団、日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて行われた。成果は7月29日の英科学誌「サイエンティフィック リポーツ」に掲載され、同25日に名古屋大学が発表した。

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