タイミーが「スキマバイト」を開拓した理由とは?企業と働き手双方の新たなニーズに対応

「労働者が過多だった時代から、人が足りなくなる時代に」─タイミー代表取締役の小川嶺氏はこう話す。タイミーは2024年7月に上場した単発アルバイト「スポットワーク」の先駆者。事業開始から7年で登録者数約770万人と、日本の労働人口の10%程度が利用している。若者だけでなく、副業解禁や残業時間の減少を受けて会社員の利用も多い。これからの時代の新たな働き方を提示する存在となるか─。

「人手不足大国」日本

「働き方は大きく変化している。労働人口が不足し、日本は人手不足大国になっている。人手不足倒産も起きてくる中、人手は日本にとって大きな問題」と話すのは、タイミー代表取締役の小川嶺氏。

 2024年7月26日、単発アルバイトの仲介アプリを手掛けるタイミーが東証グロース市場に上場した。公開価格をベースにした時価総額は約1380億円という大型上場となった。

 ビジネスモデルは「スキマバイト」、つまり数時間単位で働くことができる「スポットワーク」を仲介するプラットフォーム。企業が短時間の求人を登録し、それを見た求職者が募集に申し込む。その仲介手数料がタイミーの売上高となるというモデル。

 かつて一斉を風靡したグッドウィルグループやフルキャストホールディングスのような短期派遣を手掛ける人材派遣会社ではなく「有料職業紹介事業者」と位置づけられる。

 求職者はアプリをダウンロードして登録、自分が働きたい仕事が見つかれば履歴書なし、面接なしで応募、働くことができ、給与は即受け取りが可能。

 利用者は学生が3割だが、副業解禁やコロナ後の残業減少で、30代~50代の会社員が働くケースも多い。登録業種は足元で物流・小売・飲食で9割を占めているが、ホテル、介護、保育など領域が広がる傾向にある。

 24年4月末時点で登録事業所数は約25万4000拠点、登録ワーカー数は約770万人に上る。23年10月期で売上高は約161億円、営業利益は約19億円と、すでに黒字化している。

「労働力が過多だった時代から、人が足りなくなる時代にパラダイムシフトが起きている」と小川氏。つまり、かつては企業が求人を出せば多くの応募があり、その中から誰か1人を選ぶことができたが、今は1人の応募があれば御の字という状況。その中では「働き手に寄り添うサービスが求められている。そのど真ん中にいるのがタイミー」だと小川氏は自負する。

 スポットワークでは、企業側からは「どんな人が来るかわからない」、求職者側からは「いい環境で働けるか」という不安が出る。そこで、企業と求職者が業務終了後に相互に評価する仕組みを導入。いい評価が得られれば企業は人手、求職者は仕事を継続的に得ることができる。

 さらに求職者が複数回直前キャンセルしたら2週間の利用停止、無断欠勤をしたら一定期間利用停止という形のペナルティ制度を設けている。その結果、無断欠勤率は約0.2%という水準になっている。

 総務省の労働力調査によると、非正規を選択する人の中で「正規の職がないから」と回答する人の割合は10%程度なのに対し、「都合のいい時間に働きたいから」が30%程度、「家事・育児・介護などと両立しやすいから」は20%程度の回答。あえて非正規を選択している人が増えているとも言える。

 ただ、非正規雇用で働く人が多い状況が望ましいのかというと議論のあるところ。23年は正規雇用者3606万人に対し、非正規雇用者は2124万人。

 長期就労を望む人に対して、タイミーでは「引き抜き歓迎」と称して、企業と求職者の合意があれば、直接雇用に移行することも可能にしている。

大手といかに差別化するか?

 小川氏は1997年4月東京都生まれ。立教大学経営学部在学中の20歳の時にアパレル関連事業で起業したが、うまくいかず1年で会社を畳んだ。その時に残った30万円の借金を返済するために日雇いを含め、様々なアルバイトに従事。その過程で現在のタイミーの原型となるサービスの構想を思いついて開発。自身の体験から生まれただけに「労働者の視点でつくっているサービス」と小川氏。

 小川氏の曽祖父は事業家で、明治時代から「小川乳業」という牧場事業を経営。残念ながら小川氏の祖父の代に事業は畳んだが、かつては明治乳業、森永乳業と並ぶ3大乳業の1社と称されるほどだった。そうした環境もあって、小川氏自身も早くから起業を意識していたという。

「スポットワーク」の先駆者として上場を果たしたタイミーだが、今後は決して楽観視できない。メルカリ、パーソルがすでにスポットワークに参入し、今秋にはリクルートも参入を予定しているなど、大手の参入で競争の激化が予想される。「普通の人材会社」になってしまっては大手に太刀打ちできない。

 これに対して小川氏は「切り口を変えたい」とし、タイミーが持つ「データ」が差別化のカギを握るとする。例えば、24年2月に開始したサービス「タイミーキャリアプラス」は希望者のキャリア形成や正社員就労を支援する。この基となるのが、タイミーで働いて得たスキルや経験という「データ」。このデータ資産の蓄積が、先行者利益になると見る。

 もう1つは外部環境リスク。前述のグッドウィルやフルキャストは成長期に労働者派遣法違反などがあり急速に事業を縮小させざるを得なかった。そこで小川氏は「業法に則って事業を行うことを強く意識している」と強調。それ以外にもロビイング専門役員を起用し、政治、行政との意見交換を行う他、メルカリやパーソルなどと業界団体を立ち上げて、ルールづくりも進めている。

 日本の「働き方」の変化の中から生まれたタイミー。今後、インフラとして定着するためには企業、利用者だけでなく、政治や行政、「世論」との対話がますます必要になる。