東京工業大学(東工大)と理化学研究所(理研)は8月28日、理研 RIビームファクトリー(RIBF)において、フッ素の同位体としてはこれまでで2番目に重く、陽子の倍以上も中性子が過剰な「30F」(陽子数9・中性子数21)を観測し、魔法数20の消失を確認したことを発表した。

同成果は、東工大 理学院 物理学系の近藤洋介助教、同・中村隆司教授、理研究所 仁科加速器科学研究センターの大津秀暁チームリーダー、同・上坂友洋部長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

中性子や陽子の個数が2、8、20、50、82、126個という特定の数の時、原子核はより安定になるという性質があり、これらは「魔法数」と呼ばれている。しかし中性子過剰核では、こうした魔法数が消失したり、逆に新しい魔法数が出現したりすることがわかってきている。たとえば、ネオン(陽子数10)やマグネシウム(陽子数12)の中性子過剰核では、魔法数20の消失が確認されていた。そのため、より陽子数の少ないフッ素でも魔法数が消失するのかどうかかが注目されていた。そして最近の研究から、魔法数破れの兆候はフッ素の同位体の「28F」や「29F」についても示されつつあったという。

  • 核図表上の30F

    核図表上の30F。原子核は中性子ドリップライン(中性子をそれ以上束縛できない限界)を超えると寿命が極端に短くなり、特に不安定になる。30Fは、中性子ドリップラインを超える中性子過剰核であり、これまで観測が困難だった(出所:東工大プレスリリースPDF)

一方、液体ヘリウムに現れる超流動状態が、孤立した原子核でも出現することは以前より知られていたが、中性子数が陽子数の2倍を超えるような中性子超過剰核での超流動状態については不明だった。研究チームが昨年初観測した中性子過剰核の酸素の同位体「28O」(陽子数8、中性子数20)では、魔法数の破れに伴ってさまざまな軌道を往きかう中性子対によって超流動状態になっているという予測があり、陽子数と中性子数が共に28Oに近い30Fの構造が注目されていたとする。さらに、この30Fの質量観測は、未知の中性子間力である「三中性子間力」に対する制限を与えるという。そこから中性子星の構造や中性子星合体のメカニズムで重要な役割を果たす、中性子物質の状態方程式にも重要な知見を与えることも期待されている。そこで研究チームは今回、30Fの生成とその同定を試みることにしたとする。

これまで知られている最も重いフッ素同位体は「31F」(中性子数22)だが、30Fはそれよりも中性子が1個少ないが、31Fに比べて寿命が極めて短いために捕捉が難しく、これまで観測できていなかったという。今回の研究では、ネオンの同位体の「31Ne」(陽子数10・中性子数21)を陽子標的に衝突させて陽子を1個叩き出すことで、30Fが生成された。30Fの寿命は約10のマイナス22秒しかなく、中性子1個を放出してすぐに29F(中性子数20)に崩壊してしまう。それでも、その崩壊過程の観測に成功し、30Fの生成が確認され、同時にその質量も決定された。

今回得られた30Fの質量の値より、中性子数が20に近いフッ素同位体について、中性子過剰核における魔法数20の破れが完全に確定したという。つまり、中性子魔法数20の消失は、陽子数8(酸素同位体)から9(フッ素同位体)に広がっていることが判明した。また中性子が1つ多い31Fでは、魔法数の消失によって角運動量の小さい状態が混じりやすくなり、特異状態「中性子ハロー」ができる可能性も示されたとする。さらに、この魔法数20の消失によって、2個の中性子がスピンゼロの対(クーパー対に対応)を作りながら、さまざまな軌道を往き来することが可能になり、超流動状態を作り出すことが示唆されたとした。

一方、中性子数16を超える酸素やフッ素の中性子過剰核の質量は、三中性子間力の効果に敏感であるため、こうした未知の核力成分に対して制限を与えることが期待されるという。三中性子間力は、観測で見つかっている重い中性子星の謎を理解する上で鍵となると考えられている。それと同時に、近年重要となっている原子核構造の第一原理計算に対して有力なベンチマークにもなるとする。こうした研究は、中性子過剰核の安定性(どこまで中性子の数を増やすことができるのか)、宇宙の元素合成過程(中性子捕獲反応による重い元素の合成など)、謎の高密度天体、中性子星の構造や中性子合体のメカニズムを解く鍵となる。こうしたことから、今回の研究成果は、学際領域である宇宙核物理分野にも大きなインパクトを与えるものである。

  • 中性子数が15~21個までの酸素同位体と、フッ素同位体の1中性子分離エネルギー

    中性子数が15~21個までの酸素同位体と、フッ素同位体の1中性子分離エネルギー。中性子数16から17にかけて急激に減少するのは、中性子数16が魔法数であるため。一方、中性子数20ではそのような急激な変化はないことから、魔法数20が消失していることが明らかにされた(出所:東工大プレスリリースPDF)

前回と今回の研究などにより、軽い酸素やフッ素ではどれだけ中性子をつけ加えられるのかがようやく明らかになってきたという。しかし、ネオンを超える元素を構成する原子核ではまったくわかっていない。今後の研究によって、より重い中性子過剰な同位体(中性子過剰核)の発見がさらに進むことが期待されるとしている。